巨人原辰徳監督(56)が異例の「ノーサイン指令」を下した。3番手で登板した今村信貴投手(20)に対し、2イニング目は捕手にサインを出させずに投げさせた。配球を捕手任せにするのではなく、主体性を持たせて成長を促すのが狙いだった。今村は自分で球種を考えて組み立て、2イニング目を無失点に抑えた。リーグ4連覇に向け、あの手この手で底上げを図る。

 7回終了後、原監督が若いバッテリーの会話に飛び込んだ。4失点を喫してベンチに引き揚げてきた今村と鬼屋敷の間に突然、割って入った。驚く2人をよそに「次のイニングはノーサインで放ってみなさい」と告げた。捕手の鬼屋敷に球種を指示させず、今村が自分で配球を決めて投げるという異例の指示だった。

 今村は必死の形相でマウンドに向かった。「びっくりしたけど、やらないと始まらない。捕手に頼ってばかりだと成長しない」と組み立てを考え、直球だけでなくフォークなどの変化球も投げた。指示された球種を漠然と投げて痛打を食らった7回とは違い、テンポ良く力のある球が行った。8回は無失点で切り抜けた。「2イニング目は球が乗っていった。首を振ったりしないと打ち取れない。考えてゼロに抑えられたのは、自分の1つの成長かなと思います」と、ホッとした表情で振り返った。

 ノーサイン指令には狙いがあった。20歳の今村には先発ローテ入りを期待しているが、伸び悩み中。捕手のサインに首を振ることが少なく、人の良さもあるが、勝負師としては消極的とも言える。この日は7回に失点を重ねても表情を変えず、捕手に言われるがままに映った。ここに、殻を破れない理由の1つを見た。原監督は「体も頭も躍動させて動かさないと。任せているだけではだめ。自分の意思の中で、主導権を持った中で、野性的に戦うのが大事」と、自分で考えて投球することの重要性に気付いてほしかった。

 帰り際、原監督は取材を受ける今村とばったり出くわした。「よく分かったか、今村! 頭も体も使うんだ!」と、笑顔で声を掛けた。「いい勉強になったと思う。鬼屋敷もよく受けた。きっかけになってくれればいいね」。リーグ4連覇に向け、原流の「荒療治」で、まだまだ底上げを図っていく。【浜本卓也】

 ◆原巨人が掲げる「野性味」 キャンプイン前日、原監督が「新しく、大願を成就する。『新成』のもと戦う。ここに、もうひとつ。『野性味』を加える」と、今季のキーワードに設定した。春季キャンプでは160キロの打撃マシン(通称・球道くん)を導入し、速球をはじき返す力強さを求めた。選手には自主性も期待し、ブルペンでは球数を例年より多く投げることを推奨。定位置争いもフラットにして競わせるなど、荒々しさを打ち出している。