おとこ気カープ復帰で注目される広島黒田博樹投手(40)が、ヤクルト戦に先発し、2740日ぶりの日本白星を手にした。毎回のように走者を出しながら、メジャーで磨いた芸術的な投球で進塁を許さない。7回を5安打1四球で無失点にまとめた。見事な背番号15の凱旋(がいせん)登板に超満員、真っ赤なマツダスタジアムが酔いしれた。

 試合が終わっても、スタンドは真っ赤に染まったままだった。3万1540人のファンが黒田の芸術的な投球に酔いしれた。お立ち台に上がった主役もまた特別な思いだった。

 「広島のマウンドは最高でした」

 マウンド上の厳しい表情とは違う笑顔に、割れんばかりの歓声が注がれた。

 2740日ぶりの登板に、さすがの黒田も「力が入りすぎているように感じた」。さらにスライダーに切れを欠いた。7回まで投げて3者凡退は4回のみ。2回には先頭畠山に甘く入ったツーシームを捉えられ中越え二塁打を浴びた。3度のオープン戦登板でみせたアップテンポな投球ではなく、毎回のように走者を背負う苦しいマウンドだった。

 それでも自分の間合いだけは崩さなかった。投球間の短い黒田が、この日は8度、マウンド周りを数歩歩いて間を取った。「アグレッシブに打つ打者が多いので、自分で間合いを置きながら打ち気をそらしたりしていました」。出した走者はくぎ付けにした。

 切れを欠いたスライダーを見せ球に、ツーシームやスプリットで勝負。ときには、あえてスライダーを勝負球にすることもあった。3月8日オープン戦で対戦したヤクルト打線の頭にあるであろうデータも逆手に取った。メジャー7年で79勝を挙げた、まさに黒田の真骨頂。7回、最後の力を振り絞り、投じた96球目。143キロのツーシームで中村から見逃し三振を奪うと思わず雄たけびを上げた。

 苦手という打撃でも沸かせた。4回裏。ヤクルト杉浦の外角スライダーをたたいて右翼線に運んだ。勝利にかける思いが野手陣に伝わり、次の回に先制点が生まれた。

 満員のファンに復帰後初勝利を届けた黒田は、安堵(あんど)した。「苦しいイニングもあったが大歓声もあって投げることができた。結果を残さないといけないプレッシャーもあったのでホッとしている。試合中は必死だった。これからも楽だと思うことはない」。そして、強い決意を続けた。

 「何とか1年間、体が続く限りチームのために投げていきたい」

 広島で手にした1勝に、あらためて1球の重みを感じていた。【前原淳】