試練を与えた野球の神様が、広島大瀬良大地投手(23)にほほ笑んだ。9回を投げきり、5安打2失点の完投。劇的なサヨナラで今季初勝利が転がり込んだ。序盤は不調だったが、冷静に修正ポイントを見極めたことで力を取り戻した。昨季の新人王右腕がようやく15年のスタートを切った。

 大瀬良はポカンとしたまま、アピールに走る緒方監督を見つめていた。「正直、何が起きたのかなと…」。隣の石原から説明を受けても、完全には理解できなかった。頭上に浮かぶ「?」マークが完全に消えたのは、ホーム付近で喜ぶ仲間を見た瞬間だった。少し遅れて、今季初勝利の喜びが湧いてきた。トレードマークのにっこり笑顔だ。

 「落ち着こうと思っていたんですけど。やっぱりめちゃくちゃうれしいです。野球の神様が、おまけをくれたのかもしれません」

 4試合に登板して3敗。力投がことごとくはね返された。前回登板は9回に決勝打を浴び、1失点で負けた。「何かが足りないということを、野球の神様に言われている気がする」。本気でそう言った。仲間を責めず、自分を責めた。勝てない焦りは「まったくなかった」。やることは同じ。だから冷静でいられた。

 「なんか景色が違うな、と思った」。4回。マウンドで気付いた。踏み出す左足の着地点が横幅1足分、一塁側にずれていた。昨季、疲れがたまると出ていた兆候だった。直球がシュート回転し、力が伝わらなくなる。窮屈だったが、意図的に戻して本調子を取り戻した。序盤3回で52球を要し「このままだと6回で100球を超える。なんとか抑えたい」と思っていたところだった。苦労のなかで得た修正方法だった。

 何度もガッツポーズを繰り出し、9回の続投も志願した。9回5安打2失点、126球の力投で、今季初白星をつかんだ。だが「点を取ってもらった後に取られたり、バントを失敗したり。反省しないといけない」と、最後は大瀬良らしく反省で締めた。次はおまけで終わらせない。野球の神様をほほ笑ませてみせる。【池本泰尚】