新たに誕生した虎の4番福留が、首位死守弾をぶちかました。不動の4番だったマウロ・ゴメス内野手(30)が来日2年目で初めて5番に組み込まれた一戦。負ければ首位から滑り落ちていた正念場で、第96代4番の福留孝介外野手(38)が6回に決勝19号ソロだ。チームの連敗も3でストップ。緊急オーダーで虎が悲願Vへと再び踏み出した。

 チームの一大事を救う弾道だった。ライナーは低かった。詰まった打球音が響いた。バットを振り抜いた福留が叫ぶ。「届け! 抜けてくれ!」。白球は虎党ひしめく右翼席に着弾。同点の6回1死走者なし。福井の内寄りスライダーを強振し、豪快にフェンスまで運んだ。19号ソロで勝ち越し。苦戦しながらも力投する藤浪を援護した。

 「(バットの)芯は食っていた。あとは距離が伸びるかどうか。ギリギリ飛んでくれた。初回から点を取れていない状況でしたし、本塁打になって良かった」

 阪神第96代の4番抜てきに応えた。昨季から不動の主軸を張るゴメスが、極度の不振に陥る緊急事態だ。今季の勝負強さを買われて主軸を任された。日本球界では中日時代の07年6月20日オリックス戦(金沢)以来だった。8年前はアーチもかけており、実に2997日ぶりの「4番弾」だ。

 「うちの4番はゴメスだから。たまたまゴメスの調子が上がらないから俺が4番目に座っているだけ。俺が4番という意識で試合に臨んでいるわけではない」

 この日の練習中、4番起用を伝えられたという。それでも、浮足立たない。日米通算17年目。米大リーグのカブスでも08年に3戦、4番を打った。経験と意地が詰まった一撃だろう。

 福留孝介の野球人生は優勝をつかむためにある。幼い頃、父景文さんに諭された言葉が、いまも胸中にある。「孝介、世の中にはいい、悪いしかないんだよ。ちょっといいとか、少しだけ悪いとかはない」。白球を追ううちに処世訓になった。トップにならなければ意味がない-。故郷の鹿児島から大阪・PL学園に進んだのも、プロ入りも、メジャー挑戦も、すべて頂点に立つための挑戦だ。この日は景文さんと母郁代さんが客席で観戦。父は8月で定年退職した。生きる道を示してくれた両親への感謝たっぷりのアーチだった。

 チームは3連敗中。和田監督は大胆にも、4番ゴメスの5番降格を決断した。「もう待つ時期じゃない。悪くても(打線を)機能させなければいけない。誰が見てもゴメスが外れたら、現状で孝介しかいない」。敗戦なら首位陥落の危機を踏みとどまり、2位ヤクルトに0・5ゲーム差をつけた。ゴメスが復調するまで頼れるベテランを4番に置く。前夜の敗戦後、福留は父に漏らす。「明日、負ければ終わってしまうかもしれない…」。この精神力、この勝負強さ。窮地の和田阪神を支えるのは酸いも甘いも知り尽くす勝負師だ。【酒井俊作】

 ▼福留が阪神初の先発4番で本塁打。スタメン4番は中日時代の07年6月20日オリックス戦(金沢)以来、通算104試合目。先発4番での本塁打もこの試合で本柳から打って以来で、計26本塁打。メジャーでは3試合あり、カブス時代の08年5月3、4日カージナルス戦、5日レッズ戦(本塁打はなし)。なお、阪神での初スタメン4番試合で本塁打を放ったのは、金本知憲が03年8月9日広島戦(広島)で佐々岡から放って以来。