首位の座は渡さない! キャプテンの気迫が勝利を呼び込んだ。0-0の8回、阪神鳥谷敬内野手(34)が1死二塁から三塁線を破る適時二塁打。それまで苦しめられていた中日ネイラーから決勝点をもぎとった。3試合連続マルチのトップバッターが先頭に立ち、首位陥落を阻止。中日戦は、優勝した03年以来、12年ぶりの7連勝! 進撃にオワリはない。

 悪夢の二の舞いだけはゴメンだ。鳥谷が覚悟を込めた痛烈ゴロで三塁線を破った。両チーム無得点の8回1死二塁。右腕ネイラーの失投、高めに浮いた初球チェンジアップを強く流した。「チャンスだったので、とにかく初球から」。三塁手エルナンデスの懸命なバックハンドから逃げ切った瞬間がこの日、虎党にとってのハイライトシーンだ。

 初対決のネイラーに手を焼いた。196センチから投げ下ろされる140キロ台中盤の直球系に押され、テンポよくコーナーにまとめられ…。気がつけば7回を終えて散発3安打。キャプテンの先制二塁打から8回に2点を奪い、なんとか中日戦7連勝を決めた。「まあ、最終的に勝てればいいんで」。内容を問う時期はもう過ぎた。1勝という事実に価値を見いだした。

 「終わったことを振り返っても、もう戻ってこない。1度リセットしたいという気持ちが強いから」

 猛虎の主軸。殊勲打を放てば、翌日の在阪スポーツ新聞の1面には「鳥谷」という名前がこれでもかと躍る。いつのころか、ヒーローになろうと戦犯になろうと、紙面に目を通さなくなったという。新しい朝を迎えれば、常にフラットな気持ちで1日をスタートするスタイルを貫いてきた。そんな男でも、頂点に立てず煮え湯を飲まされ続けた9年間の悔しさはリセットせず、心にとどめたままだ。

 「シーズンをトータルで考えた時、貯金を10も20も作ったチームが負けて、違うチームが日本シリーズに行くのはね…。2位、3位から行くのもすごいことだけど、優勝できなかった悔しさは絶対に残ると思う」

 数年前、シーズン終盤の言葉だ。もちろんクライマックスシリーズに入れば、全身全霊を注ぎ込んできた。ただ野球人として、V奪回失敗というトゲが心に刺さったまま戦わざるを得ないのも現実だった。昨季は2位からCSを突破。今度こそ王道を突き進んで日本シリーズに向かいたい。

 振り返れば1年前、ナゴヤドームから悪夢が始まった。首位巨人に3・5ゲーム差で迎えた9月5日、中日戦で山本昌に球界最年長となる49歳星を献上。ここから6連敗と大崩れし、事実上の終戦となった。同じ舞台で同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。

 「勝てばいいんです」

 チームバスで帰路に就く直前、2度目のフレーズで締めくくった。屋外に出れば夜風は涼しい。もう9月だ。しみじみと言い残した表現に、この1勝の重みがにじみ出た。【佐井陽介】

 ▼阪神は昨年、9月5日から中日3連戦(ナゴヤドーム)、巨人3連戦と広島3連戦(いずれも甲子園)を戦った。今季は4日からとなったが、偶然にもカードと球場は同じ日程。昨年は9月4日まで2位で首位巨人に3・5ゲーム差だったが、中日に3連敗、巨人にも3連敗した時点では3位、巨人と7・5差となった。

 ▼阪神は03年6月3日から7月25日まで中日に7連勝した。井川3勝、藪2勝、伊良部と下柳が1勝ずつで、すべて先発投手に勝ち星がついた。この7連勝中に甲子園10連勝も記録(6月5日)。その時点で貯金21とし、2位巨人に9ゲーム差。星野仙一監督2年目で優勝へ突っ走った。