集大成のタクトを見逃すな-。巨人は10日、東京ドームに阪神を迎え、クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージに臨む。原辰徳監督(57)は、2年契約の最終年。契約の満了をもって、今季限りで退任する可能性が高い。圧倒、接戦、逆転、サヨナラ。幾多のドラマを描き出してきた本拠地で、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負に向かう。

 外野でアップを見届けた。ゆっくり歩いて、大きな取材の輪に身を委ねた。「まず1つ1つ。1歩1歩。道のりは頂上から見るより、だんだんと近づいていくもの」と背筋を伸ばした。凜(りん)とした、いつもの原監督だった。

 2年契約の最終年。正式な続投要請はない。5日、渡辺恒雄最高顧問と白石興二郎オーナーを訪ねた。球団トップは去就の話題に触れなかった。原監督は不思議に思わなかった。「その話は全く出なかった。聞けばあれ(教えてくれる)かも知れないが」と穏やかだった。秋の深まる10月に自分の置かれた現実が、地平へと導いていった。

 静かに「巨人軍の伝統の中で、けじめの部分」と加えた。大きな戦に集中しろ。勝って戻ってこい-。去就に触らないことこそ最上級のゲキ、と受け止めた。CSの相手は手負いの虎と“出し切った”燕。日本一に届けば、自分の身はまだ分からない。ただ、日本一と去就を量れば、巨人軍にとってどちらが重たくて大切な事かは、誰よりも分かっている。だから続投要請がなくとも動じず、明鏡止水の境地に入れた。

 4人の名前を挙げた。「慎之助であり、勇人、長野。そして村田。中心選手が活躍してほしい」。固有名詞を出すことは非常に珍しかった。いつも一緒だった阿部。あどけなかった坂本は、主将まで引っ張り上げた。長野には時に厳しく、でも揺るがぬ信頼を注ぎ続けた。村田のFA移籍に大喜びし、ホットコーナーを託した。苦楽を共にしてきた面々を前に出して戦う。

 東京ドームを「自分たちの城」「わが家」と表現し、愛している。今季の阪神戦は11勝2敗。監督としての本拠地通算成績も、勝率6割2分9厘と圧倒している。ずぬけた強さの源は「自分の中で結論は出ていない」。でも分かる。がらんとした右翼スタンドを見た。「ホームの利がある気がする。『もう1回あるぜ』って。雰囲気が思わせてくれる。ファンと、もう1歩1歩、超えていきたい」と言った。巨人に育んでもらって30年。どんな時もファンが支えてくれた。総決算。ドームの心を束ねる。

<東京ドーム原監督炎のタクト>

 ◆10・8 08年10月8日、阪神と同率決戦。好投の先発内海を6回途中であきらめ、山口を積極投入。山口が8回途中までしのぎ3-1で勝利。大逆転Vへ。

 ◆捕手キムタク 09年9月4日、ヤクルト戦。危険球などで捕手を使い切った延長12回、木村拓を10年ぶりに捕手で起用。引き分けに持ち込む。

 ◆天国へ届け 10年4月24日、広島戦。木村拓也氏追悼試合で、2-3の8回1死満塁に、親友の谷を代打で起用。谷はプロ入り初の満塁本塁打を放った。

 ◆内海号泣 11年10月22日、横浜(現DeNA)戦。1点を追う9回無死満塁、代打長野が逆転サヨナラ満塁アーチ。内海は最多勝を獲得した。長野は阪神マートンと首位打者を激しく争っていた。

 ◆●●●→○○○ 12年のCSファイナルS、中日戦。3連敗し、後がなくなった試合前のミーティング。「我々は、徳俵に足がかかった。巨人はここからが強い。本当の力を見せよう」と鼓舞。積極采配がことごとく当たり、3連勝で日本一まで進んだ。