侍が鬼になった。小久保裕紀監督(44)が率いる侍ジャパントップチームは5日、台湾との強化試合(ナゴヤドーム)に快勝した。1回、四球で出塁した秋山が一塁からのタッチアップを敢行。2回には代表初選出の清田が一塁から長駆生還するなど立ち上がりから積極的な姿勢を貫き、重圧をかけ続けた。昨年11月のプレミア12では、韓国に9回逆転負け。来年に迫ったWBCでの覇権奪回に向け、力強く滑り出した。

 “本気”が足に宿っていた。1回1死一塁。一塁走者秋山は、山田のやや深めの中飛で二塁を陥れた。打球が上がった瞬間から、ベースを離れず捕球のタイミングに集中。得点こそ逃したが、台湾外野陣の隙を突く走塁で確実に主導権を握った。小久保監督は「プレミア12などを経験し、国際大会で(盗塁、タッチアップなどの)スタートを切る難しさを実感した。今日のように、いいところはどんどん継続してもらいたい」とうなずいた。

 世界一奪還に向け鬼になれ-。試合前セレモニーで球界のトップが力強く宣言した。

 熊崎コミッショナー 昨年のプレミア12では、非常に悔しい思いをしました。来年3月のWBCでは、必ずや世界一を奪還いたします!

 小久保監督の思いも同じだ。前夜のミーティングで選手へ語りかけた。「ちょうど1年後に本番がある。イメージして戦ってほしい」。指揮官として初めて臨んだ国際大会、プレミア12では3位。大会終了から2週間がたった12月上旬「大会を振り返ることばかりだよ」と漏らしたが、悔しがるばかりではなかった。コーチ陣らと個別に面談。「敗軍の将は兵を語らず」が信念だけに、具体的な内容は明かさなかったが「(大会が)終わってから分かることもある」と言った。忌憚(きたん)ない意見交換で問題点、改善点の把握に努めたのは、全て本番=WBCで勝つためだった。

 その姿勢は戦術に表れた。この試合の三塁コーチは、巨人で長年コーチスボックスに入る大西外野守備走塁コーチに託した。2回2死一、二塁。中村悠の三塁線を破る二塁打に、同コーチは迷いなく腕を回した。一塁走者の清田も生還させ、2点を先制。WBCでは、さらに重要度を増す序盤の1点。足でもぎ取った2点目にも“チーム侍”との本気が凝縮されていた。

 足で流れとリズムを生み、投手陣も無失点リレー。小久保監督は「選手も気合が入っていましたし、いい形で勝つことが出来た。台湾とはWBCの予選でも必ずあたりますから。(チームで)共有する時間を大事にして、明日も勝って終わりたい」。3万4910人の大観衆の前で完勝。本気の侍たちが、王座奪還へ最高の形で再出発した。【佐竹実】

 ◆昨年のプレミア12準決勝 日本は先発大谷が160キロ超えを連発し、韓国打線を7回無失点に封じた。続く8回を無失点に抑えた2番手則本が3点リードの9回も続投したが、韓国打線に3連打、死球を与えつかまった。松井、増井も勢いを止められず逆転負け。抑えやセットアッパー分担を明確に決めない日替わり起用が裏目に出た。