9回裏のDeNAブルペンは静まりかえっていた。マウンドに向かう井納の姿を、仲間はモニターで見守った。「全部、勝負で」。身を落とした。へその下、丹田に力を込め、自身2度目の完封に挑んだ。

 巨人は2番立岡。高い打点から落とすフォークボールと、内角に差し込む直球で連続三振に抑えていた。「野球は9回まで。先頭を切る」。雄大なワインドアップ。トルネード気味に軸を作る。「低めだけ意識していた」。インロー147キロで主導権を奪う。2球目。初球と同じ地点にフォークを落とし、振らせた。1球つり球を挟んで仕留めたのは、2球目と対のアウトロー、フォーク。王道の攻めを貫いた。「最後の方が良かった。点を取ってもらって、より大胆にいけた」。ベイスターズが誇る本格派。球界トップランクのスタミナ。迫力が最終回の3者凡退に凝縮されていた。

 「勝ち負けは終わってから。0点に。最少失点で」。1人1人、の積み重ねに徹した。井納はビジター戦が好きだ。「打者の出ばやしを聞ける。聞いては口ずさんで。気持ちを切り替えていける」。坂本の「キセキ」に片岡の「ultra soul」。相手ファンと唱和し、力に変える余裕があった。長い指でペットボトルとウイニングボールを挟んだまま、勝ちどきの通路へ。「こだわりはないんです。監督の息子さんに渡します」。完封の証しは、1歳になったラミレス監督の愛息・剣侍(けんじ)ちゃんへ渡ることになった。【宮下敬至】

 ▼井納が14年5月23日日本ハム戦以来2度目の完封勝ち。巨人戦で完封勝ちしたDeNAの投手は09年10月2日ランドルフ以来となり、日本人投手では05年6月22日土肥以来、11年ぶり。敵地の東京ドームで完封勝ちは89年8月16日欠端、99年5月14日斎藤隆、02年7月16日ホルト、09年10月2日ランドルフに次いで球団史上5人目になる。