サヨナラ、やりました~! 同点の9回1死満塁、阪神原口文仁捕手(24)が、中越えにプロ初のサヨナラ打を放った。中日に2点を先行されながらも6回に同点とし、土壇場で執念を発揮した。4月下旬に育成契約から支配下に抜てきされたシンデレラボーイは、お立ち台で絶叫。チームは再び貯金を1とした。

 歓喜の輪は解けない。ヒーローは金本監督の姿を見つけると思い切り胸に飛び込んでいく。同点の9回に勝負を決めたのは原口だ。1死満塁。初球ファウルの後、ボールが3球続く。又吉の苦しさが手に取るように分かる。5球目だ。速球を強振し、ライナーは中堅大島の頭上を越えた。

 初体験のサヨナラ打だ。普段は冷静な女房役は、びしょぬれになりながら、お立ち台で声を張り上げた。「最高でーす!!」。中日に連勝し、再び貯金1。土壇場でも動じない、心のありようが際立った。

 「センター中心で最低でも外野フライを打てば何とかなる。冷静に力みなくバットが思い通り出てよかった」

 心はブレない。原口がいま、捕手として野球人生を続け、1軍の大舞台で力量を発揮できる最大の要因だろう。外野手からコンバートされたのは帝京(東東京)時代だ。名将の前田三夫監督は筋金入りの精神力にうならされた。「冷静で優しい子だけど、勝負事では命取りになる。激しい気持ちにさせようと俺もかなり嫌みを言ったけどアイツは動じない。『捕手をやってみろ。試合の要はお前に任せる』となりました」と懐かしんだ。

 同点の8回、同じ育成枠の境遇だった田面とコンビを組んだ。2死二塁、内角直球で空振り三振を奪って攻守交代。1度は白球をボールボーイに手渡すが、慌てて取り戻す。「初めての三振のボール。田面さんは『いらない』と言ったけど僕の中では大切な1球…。渡してあげたかった」。育成に転落した要因だった腰痛が癒え、再出発を図るはずの13年、シート打撃中に左手を骨折。投げたのは田面だった。絶望を味わっても、グッとこらえた。

 あの骨折の後、田面の剛速球が消えた。ある時、原口はそっと歩み寄って言う。「ケガのことは気にしないでください。僕も田面さんのストレートを楽しみにしていますから」。3年がたち、やっとここまで来た。クラブハウスへの引き揚げ際、原口は言う。「田面さんの最後の1球、最高のボールでしたね」。優しくなければ男じゃない。阪神には、こんな懐の深い女房役がいる。【酒井俊作】

 ▼原口が2-2の9回、初のサヨナラ打。育成枠経験者のサヨナラ打は15年9月26日バルディリス(DeNA)以来だが、阪神では初めて。原口は打率3割5分3厘と高打率だが、同点の場面には特に強く、13打数6安打の打率4割6分2厘。中日戦も得意で、20打数10安打8打点の打率5割。全18安打のうち半分以上をこのカードで打っている。