中日育成1年目の渡辺勝外野手(23)が、荒川博氏直伝の「1本足打法」で支配下登録を目指す。5日、岐阜県内で昇竜会ゴルフに参加。心不全のため、4日に86歳で亡くなった荒川氏の「最後の弟子」と言われており、今月中に都内で練習を見てもらう予定もあった。急な訃報に「今でも信じられない。言葉にならない」と言葉を詰まらせた。

 今年7月、球宴休みには神宮球場横のバッティングセンターで教えを請うた。でも、これが最後の直接指導になってしまった。2、3分歩くだけで休憩が必要なほど、荒川氏の体調は優れなかった。それでも野球に携わる場面では、元気に振る舞っていたという。誰よりも情熱を注いでくれ、期待してくれていた。

 中学時代に荒川氏から教えを受け、今の1本足打法を身につけた。なかなか習得できずに悔しく、名伯楽の前で思わず泣いた日もあった。そんなとき、「人間ダメになったときが成長するときだから」と言葉をかけられた。それが今も渡辺の支えになっている。プロ1年目は2桁の背番号を手にすることはできなかった。悔しさもある。訃報に接し、それでも前を向くと覚悟を決めた。

 荒川氏の教えや知識は、紙に携帯電話にとメモしてある。「言われたことははっきり覚えている。貫いて、この世界でどこまで生きていけるのかやりたい」と恩返しを誓った。「現役でやっているのは僕だけ」。今、荒川氏の教えを体現できるのは渡辺だけになった。今オフは打撃をさらに追求する。「1本足打法」を開花させ、天国の荒川さんに最高の報告をしたい。【宮崎えり子】

 ◆渡辺勝(わたなべ・まさる)1993年(平5)10月14日、神奈川県生まれ。東海大相模では2年春から3季連続で甲子園に出場し、2年夏準優勝、3年春優勝。東海大に進み、4年春のリーグMVP。15年育成ドラフト6位で中日入り。今季ウエスタン・リーグで64試合に出場し、打率2割7分5厘、1本塁打、21打点。172センチ、80キロ。右投げ左打ち。

<主な1本足打法の打者>

 ◆王貞治(巨人)故・荒川博打撃コーチの指導のもと、差し込まれて詰まるのを矯正するために1本足で打つ練習を開始。62年に実戦で使い始め、38本塁打でキングに。前人未到の868本塁打を達成した。

 ◆門田博光(南海-オリックス-ダイエー)小柄な体をフル活用する打撃で、球界を代表する長距離砲に。本塁打王3度、打点王2度。通算567本塁打、1678打点はともにプロ野球3位。

 ◆片平晋作(南海-西武-大洋)元祖1本足打法の王を参考に、中距離打者として活躍。西武移籍後も中軸を務め、在籍5年で4度の優勝に貢献した。

 ◆大豊泰昭(中日-阪神-中日)王の持つシーズン記録55本塁打を目指し、背番号も「55」に。全打席ホームランを狙いにいく豪快なフルスイングで相手投手を圧倒した。94年38本塁打でタイトル獲得。