プレーバック日刊スポーツ! 過去の1月9日付紙面を振り返ります。2002年の1面では、ヤクルト石井一久投手にドジャースが約15億円の最高額で入札を報じました。

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 ヤクルト石井一久投手(28)のロサンゼルス・ドジャース入りが決定的となった。8日、同投手に対するポスティングシステム(入札制度)の入札が締め切られ、ド軍が1150万ドル(約15億円)の最高額を入札したことが明らかになった。ヤクルト球団も受諾し、今日9日に米国へ正式回答することを決めた。石井一は意中の球団だったド軍で野茂とともに先発の柱と期待され、同じナ・リーグ西地区のダイヤモンドバックスのランディ・ジョンソンや、ジャイアンツのバリー・ボンズらと対決を繰り広げることになる。

 意中の球団に、思いは伝わっていた。石井一が「希望は温暖な西海岸球団」と口にしてきた、そのドジャースが、日本球界NO・1左腕との独占交渉権を獲得したことが確実となった。

 この日午前7時(米東部標準時7日午後5時)に入札が締め切られ、大リーグ機構は複数の入札があったことを明らかにした。最高入札額とその球団名、参加球団数などは発表されていないが、8日付のロサンゼルス・タイムス電子版は、関係者の話としてド軍が1150万ドル(約15億円)を入札したと伝えた。この日、最高入札額は日米のコミッショナー事務局を通じてヤクルト球団に伝えられたが、関係者によればド軍の入札額と同額だったもよう。相思相愛の落札結果で、14人目の日本人メジャー誕生は確実となった。

 今回の入札にはド軍のほかマリナーズ、メッツ、レンジャーズなど5球団以上が参加。同じ西海岸のエンゼルスが1000万ドル(約13億円)を入札したとも伝えられ、日本球界屈指の左腕獲得をめぐって水面下で争奪戦が繰り広げられた。ド軍は2年前から獲得に意欲を見せていたが、当初は700万〜900万ドルの入札金を予定。しかし入札締め切り間際になって西地区のライバル球団であるレンジャーズとマリナーズが高額入札する情報が駆け巡り、ド軍も直前になって上方修正。結果的に日本円でイチローの落札額約14億円(1312万5000ドル、当時1ドル=110円)を上回る約15億円となった。

 石井一は球団名など知らされないまま自主トレを兼ねてこの日、古田らとハワイへ飛び立った。「今は入札してもらっただけでうれしい。ホッとしました。でもこれからスタートという緊張感もあります。自分を高く評価してくれた球団ならどこでも交渉します」。成田空港での会見後、米国からド軍有力との情報が飛び込み「はっきり決まったわけじゃないが、もしそうならうれしい」と笑顔をはじけさせた。

 ヤクルト側も迅速に対応した。この日午前、日本のコミッショナー事務局から最高入札額の報告を受け緊急役員会を招集。多菊球団社長は「電話による役員会は済ませた。(受諾の)方向で合意した」と語り、今日9日に受諾の正式な手続きを取ることを明かした。今後、30日以内に石井一は代理人を介して落札球団と契約交渉をまとめる。

 ド軍には野茂が復帰し、左右の日本人コンビが米球界でも話題になるのは確実だ。しかも4月2日(日本時間3日)からの開幕カードは昨季73本塁打のボンズ、メッツから移籍した新庄が所属するジャイアンツを本拠地ロサンゼルスに迎える。同じナ・リーグ西地区ではダイヤモンドバックスもおり、ランディ・ジョンソンとの左腕対決も注目される。「ハワイに着いたら球団も分かりますね。今はワクワクしています。ちゃんとグラブも持参しましたから練習しますよ」。石井一は笑顔で飛び立った。

 ◆石井一久(いしい・かずひさ)1973年(昭48)9月9日、千葉県生まれ。91年ドラフト1位で東京学館浦安からヤクルト入団。97年9月2日の横浜戦でノーヒットノーランを達成。98、00年に最多奪三振、00年に防御率1位のタイトル獲得。通算成績244試合、78勝46敗1セーブ、防御率3.38。183センチ、85キロ。左投げ左打ち。00年にフジテレビ木佐彩子アナと結婚。昨年12月に長男幹大君が誕生した。

 ◆ロサンゼルス・ドジャース 1883年創設のニューヨークのブルックリン・クラブが前身で、1890年にナ・リーグに加盟。1947年に大リーグ史上初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンを誕生させるなど、球界のリーダー的存在。58年ロサンゼルスに移転。88年に21度目のリーグ優勝、6度目のワールドシリーズを制覇。98年にオマリー一族からFOXグループに売却された。本拠地ドジャースタジアム。収容5万6000人。

 ◆ドジャースの戦力分析 投手陣は、昨季チーム最多15勝を稼いだ朴賛浩(韓国)がレンジャーズへ移籍したが、13勝の野茂とダールを獲得したことで先発ローテーションは充実。ひじの負傷で昨季不振に終わったアシュビーとドライフォートは復活が期待できる。石井一を獲得した場合、ギャグニーは3Aに降格する可能性が高い。抑えは、昨季43セーブのショーの退団でブルージェイズの中継ぎで11勝を挙げたクワントリルが回る見込み。

 打撃陣は、昨季49本塁打125打点のグリーン外野手、打率3割2分のロデューカ捕手が健在。36本塁打のシェフィールド外野手は移籍志願しているが契約は04年まである。ブルージェイズからイズタリス内野手、インディアンスからロバーツ外野手が加わったが、投手陣に比べ、打撃陣は小粒の補強にとどまっている。

 ◆ナ・リーグ西地区展望 激戦が予想される。ジョンソン、シリングの両投手を擁する昨季王者ダイヤモンドバックスが所属する。またボンズの引き留めに成功し、昨季ダ軍で4番も打ったサンダース獲得、新庄の移籍で外野陣充実のジャイアンツ、そして野茂、石井一が加わったドジャースでし烈な戦いが繰り広げられそうだ。昨季地区4位のパドレス、最下位のロッキーズも補強を続けている。

 ◆ポスティングシステム(入札制度) 所属球団の承認を得て米球界入りを希望する日本球界の選手の交渉権を、大リーグ球団が入札で得るシステム。98年12月に発効された。入札期間は4日間(土、日曜を除く)で、球団名は伏せられ落札額だけが通知されるのは、受諾か否かの判断に球団による有利不利をなくすため。日本の球団が受諾すれば、当該球団に30日間の独占交渉権が発生。契約が成立すれば、5日以内に入札金額を日本の球団に送金し、当該選手は自由契約選手となり移籍が成立する。入札制度の適用期間は11月1日から翌年3月1日まで。99年ケサダ外野手(広島↓レッズ)00年イチロー(オリックス↓マリナーズ)に次ぎ石井一は3例目。

 ◆過去の入札額 00年、マリナーズがオリックスに入札した最高額は1312万5000ドル(当時約14億円)、2位は非公開だったがドジャースの800万ドル(同9億円)だったとされる。ポスティングシステムによる米移籍第1号(99年)のケサダはレッズが40万ドル(同4800万円)で落札、広島が受諾した。

※記録と表記は当時のもの