新監督兼営業担当だ。今年から正式に指揮官になる中日森繁和監督(62)はチーム強化に加え、ファンサービスにも本腰を入れる考えを明かした。4年連続Bクラスなど成績低迷も相まって、ファン離れの危機が叫ばれる。勝利を追求するプロ集団であると同時に、グラウンド内外で魅力を放つ球団を目指し、陣頭指揮を執る。

 ファンを増やす。ナゴヤドームの客を増やす。やれることはやる。森監督が目指すのは1点だけだ。

 「監督になったら現場で一番だと思っているから、やらせてもらう。いくらでも協力するよ」

 森監督によると、就任後、ファンサービスに積極的に協力する意向を球団に伝えた。席上、これまで現場への協力要請に及び腰だった理由を聞くと、担当者の答えは「怖いから」だったという。現場に遠慮する空気に支配されていた。

 04年から11年までの落合監督時代に浸透した常勝軍団のイズム。勝利がすべてに優先され、実際に勝ち続けた。それを邪魔できないムードが定着した。落合監督はファンサービスに消極的だったわけではない。監督はグラウンドで勝たせることがファンサービスだと考えていた。球団はそれ以外で努力する。現場のムードに気おされ、本来のバランスが崩れていた。

 04年から中日を見てきた森監督も気付いていた。「(球団は)やれることはやっているっていうけれど、結果が出ないならほかのことをやらないと。このままいくと中日が一番ダメになる。勝ちながら(客を)増やして、負けたときでも応援してくれて、増えていくのが理想だよ」

 すでに動いてきた。ナゴヤ球場での秋季練習ではツルの一声で客席の開放範囲を広げたり、幼児をグラウンドに入れたり、選手のサイン会を催したり。自らもスケジュールの合間を見つけてペンを走らせた。練習の妨げになるからやりません、という言い訳は、選手にも球団にもさせない。

 野球も変える。「守り勝つ野球」は理想としながら、楽しませて勝つ野球を目指す。相手や状況によって打撃重視など柔軟にオーダーを変える可能性を示した。「何を考えているか分からんようなこともあり得る。その日その日で何が起きるか分からない。それを楽しみに球場に足を運んでくれればいい」。

 勝利追求とファン重視は決して背反しない。62歳の新米監督は大きな宿題に取りかかる。

 ◆ナゴヤドームの中日主催試合の観客動員 ナゴヤドームの年間最多観客動員数は開場した97年の260万7500人(主催69試合)。その後は徐々に減少を続け、落合監督の08年に6年ぶりに240万人を超えて巻き返したが、高木監督の13年に初めて200万人を下回った(199万8188人、主催72試合)。この年がこれまでの最少。