選手会長が仕事をした。広島小窪哲也内野手(32)が、7回1死二、三塁の好機に代打で登場。バットを折りながら執念で同点2点適時打を右前に運んだ。延長10回に今村がDeNA打線につかまり決勝点を奪われ、チームは今季初の連敗。2カード連続の負け越しを喫したが、小窪選手会長のもと、再び一丸となって神宮に乗り込む。

 バットは折れた。当たりは悪い。でも、一塁上の小窪はうれしそうだった。一時同点となる2点打を、代打の一振りでたたき出した。2点を追う7回1死二、三塁。「自分でもなに言うてるか分からん」と言う自己暗示をかけながら打席に立った。初球から迷いはない。内角球にバットは折られたが、気持ちを乗せた打球はスピンを生んだ。奇妙な軌跡を描いた打球が、しぶとく一、二塁間を抜けた。

 「打ったのはシュート。とにかく同点になってよかったです!」

 帽子の裏に「38」の数字と「共に」と書いてシーズンに臨む。胃がんと戦う赤松の背番号だ。「ために、じゃない。共にやから」。春季キャンプにも持ち込んだレプリカユニホームは、ロッカーに掲げてある。御利益があると聞けば特別に祈願してもらったお守りも送った。「誰が欠けてもだめ」と言う選手会長。意地の一打だった。

 不調にあえいだ。タイミングが合わず、微妙な誤差が大きなズレを生んだ。前日の微妙な判定もあり、この打席まで13打席連続で無安打が続いていた。「この結果でよく使ってくれると思う。何とかしないと。何とか、本当に、何とか打ちたい」。日々、試行錯誤を続けるなか「自分で打破するしかない」と言い聞かせた。形より、安打より、打点より、喜ぶベンチがうれしかった。だから試合後、笑顔はなかった。

 チームは延長10回に決勝点を奪われて敗れた。今季初の連敗で、2カード連続の負け越し。気持ちを切り替えて今日21日から神宮に乗り込む。代打の切り札の復調は、大きな材料になる。真っ赤に染まったスタンドも、そう信じている。【池本泰尚】