<阪神2-1広島>◇11日◇甲子園

 甲子園の“申し子”が満点の里帰りだ。広島前田健太投手(20)が1軍ではプロ入り後初めて甲子園の土を踏んだ。10戦連続2ケタ安打中だった首位阪神に対して6回2/3を6安打無失点。延長11回サヨナラ負けという結末だったが、文句のつけようがない粘りだった。PL学園高1年の夏に聖地デビューしてから4年。20歳になった怪童が成長した姿を見せた。惜しくも敗れたがナイスゲームだ。虎にとことん食い下がれ!

 力尽きた。惜しかった。首位阪神を延長11回まで苦しめた。連続試合2ケタ安打を10で止めた。試合に敗れても前田健の109球の熱投は色あせない。

 ベンチ最前列で戦況を見守る広島前田健はマウンド上と同じように落ち着いていた。8回、永川が同点犠飛を浴びたときも表情は変わらなかった。1軍ではプロ入り後初の甲子園で6回1/3を無失点。3勝目は惜しくも逃したが、文句のつけようのない内容だった。

 「立ち上がりはあまり調子が良くなかったが、前回の反省を生かしながら粘りの投球ができました」と納得の様子だった。

 それにしても…。右腕に白星がつかなかったのが惜しい。阪神ボーグルソンも150キロの直球でグイグイ押して絶好調。2回から4イニング連続3者凡退。両軍のスコアボードに次々と「0」がともされていく。阪神ファンが演出する甲子園特有のハイテンション。一刻も早く得点したかった。

 風向きを変えたのは6回だ。2死後に赤松、嶋が連打で一、三塁。打席に入った栗原は集中していた。「投手戦の中で回ってきたチャンス。絶対に打ってやろうと思っていた」。カウント1-3から甘く入った直球を中前にクリーンヒット。待望の1点を前田健にプレゼントした。主砲は「甘い球をしっかりとらえられた。先に点を取れたのは大きい」と胸を張った。

 前田健は仕事を十二分に果たした。2回の無死一、二塁など序盤から何度も走者を背負った。しかし、そこは高校1年生から登板経験がある甲子園の“申し子”だ。低めにカーブ、スライダー、チェンジアップと変化球を集めた。

 ボーグルソンに一歩も引かなかった。むしろ投げ勝った。「特に左打者に対してチェンジアップをうまく投げられた」。初回の2死三塁で葛城を二ゴロに打ち取ったのも得意のチェンジアップだった。

 8回にシュルツが出した走者を永川が返されて1-1。永川は意地を見せた。9回裏、1死三塁のサヨナラの大ピンチで関本を遊ゴロ、新井を空振り三振に。10日に続く延長戦に入ると一進一退のスリリングな攻防になった。4番手岸本が2イニング目の11回に2死一、三塁から関本にサヨナラの左前打を浴びた。

 残酷なラストだった。しかしナインの顔に悲愴(ひそう)感はない。表情が生きている。次やり返すだけ-。思いは前田健も同じだ。大阪出身の20歳は自分を育ててくれたグラウンドでまた1つ成長した。【柏原誠】