<日本シリーズ:西武3-7巨人>◇第5戦◇6日◇西武ドーム

 巨人が6年ぶり日本一へ王手をかけた。2勝2敗のタイで迎えた日本シリーズ第5戦、原辰徳監督(50)の采配がズバリ当たった。不振の李をスターティングメンバーから外し、5番に起用した指名打者の阿部慎之助捕手(29)が2度の同点打、脇谷亮太内野手(27)が決勝打。7回に5連打で西武先発涌井を粉砕した。先発上原が序盤で7安打を浴びると、4回から継投に入り逆転の布石を打った。勢いを取り戻した原巨人は、8日第6戦(東京ドーム)で、悲願の日本一奪回に臨む。

 躊躇(ちゅうちょ)はない。4回裏に入る時、原監督が球審に投手の交代を告げた。DHのある試合で、先発していたのは上原だった。守備に足を引っ張られながら、なんとか2失点で抑えていたエースから、山口にスイッチ。勝つために何をすればいいのか、最善策だけを考えていた。

 何度もシミュレーションした“西武打線封じ”だった。「カギを握るのは西村。使いどころが難しいのが山口。西武は右の好打者が多いからね。勇気を持って内角を攻める。(西村)健太朗のシュートは、武器になると思う。どれだけ勇気を持って内角を攻められるかが勝負になる」とシリーズ前に話していた。強力西武打線を崩すのは、内角を意識させ、各打者の打撃フォームを狂わせるのが効果的。その“刺客”としてキーマンに挙げたのが、今日本シリーズから1軍復帰したばかりの西村健だった。

 急きょ、登板した2番手山口が5回2死一、二塁のピンチを迎えると、西村健をマウンドに送った。銀仁朗を三塁ファウルフライに打ち取り、1回1/3を無失点。今シリーズ5戦で4試合目の登板となる右腕は、第3戦に中村に3ランを浴びたが、切り札的存在に指名した信頼は変わらなかった。継投策をずばりと決め、西武のエース涌井に対し、ジワジワと圧力を加えた。

 最少得点差の1ビハインドで迎えた7回表、今度は組み替えた打線が威力を発揮した。「一番、パワーが出せるのは誰だ?という部分を考えて起用しているだけ。ふだんの野球だよ」と多くを語らないが、大不振の5番李に代えてクリーンアップに起用した阿部が同点タイムリー。速球派の涌井攻略へ、直球にはめっぽう強い6番亀井が中越え二塁打、7番脇谷が左中間を割る決勝三塁打。そして坂本がダメ押し二塁打。5連打で4点を奪って難攻不落のエースをKOし、試合をひっくり返した。9回表には盗塁、代打タイムリー、7点目はスクイズを決めて、とどめを刺した。

 原監督

 涌井は非常にいいピッチャー。いい形で攻め、ワンチャンスをものにしたね。若い選手が自信を持って戦っている。頼もしいね。大きな舞台で戦い、彼らの財産になる。日本一に王手?

 ひとつひとつ戦っていくだけ。日本シリーズは短期決戦とはいえ、腰を据えて戦わないとダメだから。

 前日、グライシンガーと中島が乱闘寸前になっているが、試合前、メンバー交換する前に顔を合わせた中島を呼び止め「あまりカッカするなよ」と声を掛けた。「日本シリーズは結果も大事だけど、それだけじゃない。胸と胸を突き合わせたいい戦いをすることが大事なんだよ。野球界最高峰の大舞台なんだから」と話している原監督らしい心配りだった。2勝2敗で迎えた5戦目を7-3で快勝し、日本一奪回へ、王手をかけた。最高峰の舞台の頂点は、原監督の目にしっかりと見えている。【小島信行】