<横浜6-5楽天>◇25日◇横浜スタジアム

 ハマのおじさんが歴史的勝利を挙げた。横浜の工藤公康投手(46)が楽天2回戦(横浜)で9回の1イニングを無失点に抑えて逆転サヨナラ勝ちを呼び込み、07年9月26日阪神戦以来607日ぶりの勝利をマークした。46歳以上の勝利は50年5月の浜崎真二(阪急)以来59年ぶり2人目で、工藤自身が持つセ・リーグ最高齢勝利を更新した。40歳以上通算37勝で史上最多とし、通算223勝は村山実(阪神)を抜いて単独13位になった。

 スタンドはこの男の登場を待ちわびていた。1点を追う9回、工藤の名がコールされると、内野席前方フェンス際に、観客が押し寄せた。リリーフカーでマウンドに向かう男に、無数の手が伸びた。その思いに応えないわけにはいかない。工藤の闘志が一気に燃え上がった。

 代打宮出を三ゴロに仕留め、好調の小坂も力ない遊直に抑えた。最高の見せ場はそこからだった。4割打者の草野を力で抑えた。初球、142キロの速球でストライク。2球目は134キロのカットボールで追い込んだ。最後は高めのつり球。141キロの速球で3球三振にねじ伏せた。「振ってくると思わなかった。反応を見て、次の球を考えていた」。手を出してくれば内角直球、無反応なら外のスライダーかカーブで勝負するつもりだった。工藤の気迫と冷静さが生んだ余裕が、草野をのみ込んだ。

 「本来はリードの場面で使う投手だが、あえていった」という田代監督代行の期待に応える3者凡退の快投が、一気に球場のムードを変えた。サヨナラ打を放ったのは内川だが、その原動力となったのは、工藤だった。607日ぶり、セ・リーグ最年長、40歳以上で史上最多の37勝目。村山を超える単独13位の223勝。記録ずくめの1勝にも「ヒーローと言われても困る。ヒーローじゃないですから。勝利?

 ごほうびということで、ありがとうございます」と謙虚だった。

 先発からリリーフに転向するため2軍で調整していた時、工藤は原点に返った。登板機会はなかったが、山形への遠征に帯同した際、新幹線のホームで自由席を待ったという。これまではグリーン車が当たり前だった。そして工藤はそれを「勉強だよ」と目を輝かせながら雅子夫人に話した。

 「今までの気持ちと違って、自分の頑張りだけでなく周りに感謝しながらやっていると思います。本人も『(2軍は)こんなんだったっけ』と人のありがたみを感じて、この年だからわかる気持ちがあると思う。勝ち星といっても今までの(先発の)勝ちとは違うと思います」と、一番近くで支える雅子夫人は言う。

 この日の工藤が一番喜んだのも、自分の白星ではなく、チームの勝利だった。「今はリリーフ投手なので勝ち星はおまけです。次につないでいくだけ。欲をかくとろくなことがない。自分の仕事をするだけ」。昨季は24年ぶりの未勝利に終わった。だが今季は「25年ぶり」というリリーフで、その大変さ、野球の深さを身に染みて知らされた。横浜は、まだまだ、この男を必要としている。【竹内智信】

 [2009年5月26日8時21分

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