<ヤクルト5-4西武>◇20日◇神宮

 最高の場面でまわってきた。延長10回裏1死満塁。2球目を左前にはじき返し、サヨナラを確信したジェイミー・デントナ内野手(27)は、ベンチのチームメートを右手で手招きしながら一塁に走った。1人で全5打点。2発の本塁打にサヨナラ打。「サヨナラは米国でも経験はあるけど、水をかけられたり、もみくちゃにされたり、日本の方が楽しいね」。この日はデントナの日だった。

 試合前のホワイトボードに1つ禁止事項が書かれてあった。「サヨナラの際、コーヒーとお茶をかけるのは禁止。水とミルージュ(ヤクルト製品)だけにしてください」。18日のガイエルのサヨナラ弾を喜んだ際の落ちないシミに困ったクリーニング業者からのお願いだった。それがいきなり功を奏した。ひそかにコーヒーを用意していたガイエルは、事前にたしなめられ水に替えた。

 バットが折れたサヨナラ打よりも、当たりは8回の一振りの方が見事だった。一瞬でボールははるかかなたに飛んだ。小野寺の151キロの速球を完ぺきにとらえた。交代直後の初球、真ん中やや外寄りの球は、格好のえじきだった。さらに2回のソロはバットの根っこに当てながら運んだもの。持ち前のパワーを十分に感じさせた。

 これまでは日本野球に順応しきれないで悩んでいた。米国ならこのカウントではこの球を待つという球が来なかった。意識改革に時間がかかった。「いつ順応できた?

 それは今日かもしれない。投手だけでなく、天候や風向きとか、すべてを考えていかないといけない。今日からまた始まるんだ」。野球だけでなく、和食やはしの使い方など、日本文化に順応しようと努力してきた男が、確信を抱いた1日になった。この日を境にデントナの脅威は増すかもしれない。【竹内智信】

 [2009年6月21日8時17分

 紙面から]ソーシャルブックマーク