<中日7-2ヤクルト>◇13日◇ナゴヤドーム

 あきらめない竜に不屈の男がいた。中日井上一樹外野手(38)が、チームの天敵・ヤクルト館山を打ち砕いた。初回、右中間突破の2点タイムリー三塁打を放った。6回までに8安打で6点を奪い、昨季から7連敗中だった館山から402日ぶりの白星をあげた。打てなければ2軍降格の方針だった井上が意地の一打で、2年ぶりのヤクルト戦同一カード3連勝。引退の2文字さえよぎったベテランが、今季初めて主役になった。

 チームの天敵を打ち砕いたのはがけっぷちの男だった。初回、和田のタイムリーで1点を先制してなお一、二塁。井上が館山の外角へ落ちる変化球を引っ張った。打球は鋭く二塁手の頭上を越えて右中間を破った。「体が反応した。セカンドをまわってからはサイドブレーキがかかっている感じだった」。二塁を蹴って激走した。自身2年ぶりとなる三塁打で大きな2点を追加した。

 昨季から7連敗中と煮え湯をのまされてきた館山から6点を奪ってKOした。黒星をつけたのは昨年8月7日以来402日ぶり。試合後、落合監督も珍しく主役を名指しした。「今日は一樹(井上)に聞いてやってくれ。中4日で館山がくるのはわかっていた。だから我慢した。打てなかったらファーム(2軍)だった」。この日まで29打数1安打、打率わずか3分4厘だったが、落合監督はスタメンで起用した。昨季3割3分3厘と相性のいい館山攻略のためだった。打てば1軍、打てなければ2軍-。ラストチャンスだった。

 今季初めてのお立ち台では顔が紅潮していた。「立つことはないだろうと思っていたお立ち台に立ててうれしい。初安打の時はお恥ずかしいシーンを見せましたが、あたたかい声援がうれしい」。11日ヤクルト戦では27打席目での今季初安打を放って男泣きしたベテランがまたも大歓声に感極まった。この場所に戻ってくるまでの道のりはそれほど苦しかった。

 開幕から2軍暮らしが続いていた6月、若手とともに汗を流す井上がグラウンドを見つめながら思わず弱音を吐いた。「そんなつもりはないけどさ。こういう状況が続くと引退した後はどうなるんだろうとか考えてしまうこともある…」。38歳ながら格闘家のように鍛え上げられた肉体に自信を持っていた。プロ20年目の今シーズンも衰えを感じることはなかったが、1軍から呼ばれない状況でさすがに弱気になった。

 ただ、もう大丈夫だ。「迷惑をかけましたが、これからドラゴンズは秋の収穫祭です!」と井上節がさく裂した。巨人とのゲーム差は7のままだが、直接対決6試合、CSへ向けて頼もしい男が復活した。チームも、井上自身も苦しんだ分だけ、実りの秋になると信じている。【鈴木忠平】

 [2009年9月14日10時47分

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