<ソフトバンク1-4日本ハム>◇福岡ヤフードーム◇11日

 頼れる「代役3番」が、今季初の連勝、カード勝ち越しを呼び込んだ。日本ハム田中賢介内野手(28)が今季初の3打点の大暴れで、白星へ導いた。2点リードの5回に、試合を決定づける今季2号2ラン。3回にも適時三塁打を放ち、要所で長打を連発。故障で4試合連続欠場した稲葉に代わる3番の役割を果たした。開幕から5カード連続で負け越していたが、敵地でのソフトバンク3連戦を2勝1敗。最下位低迷が続くが、明るい兆しが見えた。

 技と執念が詰まった放物線が、暗闇から解放した。田中が、芸術的な一振りで仕留めた。5回2死二塁。カウント0―1からの2球目を、完ぺきにさばいた。135キロ内角高め直球。振幅の鋭いスイングでバットに乗せる。打球は切れることなく、右翼ポール際へ飛び込んだ。「結果的に強い打球が打てた」。そう涼しく振り返ったが、安全圏とはいえないリードを4点に広げる大仕事だった。

 難敵の先発大隣を失望させる、一撃だった。個人差はあるが、内角高めは、とらえるのが一番難しいとされるコース。ミートポイントが投手寄りにあり、始動、反応が少しでも遅れれば打ち損じるケースが多い。梨田監督は「素晴らしいホームラン。あれは天才やね」と、うなった。先制した直後の3回にも中越え適時三塁打。「マルチ長打」が要所で効いた。

 打線の主役不在のピンチを救った。稲葉が「椎間板(ついかんばん)症」で、8日楽天戦から欠場。3番を4試合連続で託された。全試合安打を放ち、打率5割3分3厘(15打数8安打)で6打点。実績、経験が少ない若手主体の布陣をけん引してきた。「ミスもあるけれど、みんな一生懸命やっている」。選手会長、チームリーダーとしての使命感が、巻き返しの支えになった。

 偉大な背中を越え、円熟期に突入した。故障者続出の中で、この日で529試合連続出場。巨人小笠原の日本ハム時代の512試合連続の記録を、3月20日開幕戦で抜き、球団歴代4位になった。「連続出場は一番の励みになるし、こだわりたい記録」。札幌ドームの試合ではチームで1、2番に球場入り。入浴して体を温め、ストレッチを入念に行い、故障防止に努めてきた。

 手始めは小笠原の同様のルーティンから学び、踏襲。自分なりのアレンジを加え、高い意識で走攻守に安定したプレーを、チームへ供給してきた。苦悩の梨田監督は「夢のようやね。3年くらいかかったみたい」と今季初の連勝、カード勝ち越しを無邪気にかみしめた。試練の敵地3連戦を、勝ち越しフィニッシュ。田中は「これから少しずつ借金を返済していきたい」と力強く結んだ。寡黙な28歳の鉄人が、目覚めの春を運んできた。【高山通史】

 [2010年4月12日13時35分

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