<巨人7-9阪神>◇13日◇東京ドーム

 興奮のドラマは1本の放物線から始まった。阪神鳥谷敬内野手(28)が右中間に鮮やかな弾道を描く。これまでの不振が嘘のような当たりだった。「やっと1本…、良かった。これで乗っていけたらいい」。6点を追う6回。開幕から63打席目に飛び出した1号2ラン。悩める3番のひと振りで、東京ドームの雰囲気が劇的に変わった。09年までとは違う。新井が左翼にソロを放てば、ブラゼルがセンター右に6号2ラン。圧巻の3発。1点差に迫り、劣勢ムードは消え去った。想像を超えた破壊力が初めてベールを脱いだ。

 5球団との対戦が一巡した時点で、7勝7敗の勝率5割に終わった。城島以下の下位打線が目立ったが、クリーンアップはまだ力を発揮していなかった。特に鳥谷のバットは湿っていた。それでもこの日、真弓監督は「みんなが一斉に打ったときの方が怖いよ。今年、鳥谷は絶対にやるよ」と起用に揺るぎはなかった。オフに誰よりも早く打順を明言したのが、このチームリーダーだった。「去年、あれだけ苦労して、3番の座をつかんだんだ。代えてどうする?」。09年は不振で代打を送られる場面もあった。その苦難を乗り越えた男を信頼していた。

 鳥谷が3番で力を発揮してこそ、今年の打線は破壊力を増す。指揮官の期待にようやく応えた。「打てないときも、(打撃を)変えずにやってきた。ちょっと出遅れただけと思ってやってきた」。右中間の放物線から、1試合5本塁打の圧巻の攻撃が生まれた。04年8月8日、巨人以来だ。執念の継投で逃げ切ったことも価値がある。真弓監督は興奮していた。「すごい。勢いが止まらなくなった。追い越したら、絶対、勝ちたいゲームだった」。打って、打って、打ちまくれ-。チームの思いがひとつになった。【田口真一郎】

 [2010年4月14日12時9分

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