<阪神4-1ヤクルト>◇29日◇甲子園

 哲学者はツバメがお好き!?

 投げる哲学者の異名を持つ阪神久保康友投手(30)が、得意のヤクルト戦で8回1失点とスイスイ抑えた。これで6連勝の通算9勝とヤクルトをゴクリ。最終回は球児がピシャリと締め、連敗は3でストップだ。

 ツバメキラーは健在だ。久保は集中力を極限まで高めた。8回2死一、二塁。3点差とはいえ、代打は首位打者宮本だ。ここまで得点圏打率7割の強打者を、細心の投球で攻めた。

 「次、(塁に)出したら交代だった。ホームラン以外はオッケーと思って、遠く低くへ投げました」。

 7球すべてが外角低め。140キロの直球はミートされたように見えたが、浜風に戻され、マートンのグラブに収まった。

 8回を103球の省エネ投球で3安打1失点。09年の9月29日以来のヤクルト戦連勝記録を「6」にのばした。先発投手の勝ち星も、15日の中日戦(ナゴヤドーム)の久保以来、10試合ぶり。キラーとはいえ、巨人、中日もなぎ倒して勢いに乗る相手。首位を走るヤクルト打線の迫力はひしひしと伝わってきた。

 「(キラーとか)そういうのはないです。だけどバットが振れていたので、調子がいいなと思った」。

 久保なりの“全力投球”だった。直球は常時140キロ前後。四死球から失点した22日横浜戦(甲子園)の反省を生かし、制球を重視した。

 「力いっぱい投げることが全力じゃない。バッターが打てないボールを投げることが全力だと思う」。

 コーチやチームメートを“投げる哲学者”とうならせるこだわり。強いポリシーを持つのは野球だけではない。3月11日の東日本大震災後、久保は個人としてのメッセージを発さなかった。昨季14勝を挙げた右腕はビデオメッセージの出演や取材のオファーをすべて断った。

 「野球で勇気を与えると言って、8割の人がそうなったとしても、もしかしたら2割の人はもっと悲しい気持ちになるかもしれない。自分は自分の仕事をして、それを見て何かを感じてくれる人がいればいい」。

 押し売りはしない。いつでも、自分の仕事に対してベストを尽くしてきた。この日は、楽天が仙台で“開幕戦”を行ったリスタートの日。ヤクルトの10連勝を阻んだ久保は見る人を魅了する「プロ」の投球だった。【鎌田真一郎】