<オリックス2-8阪神>◇23日◇京セラドーム大阪

 阪神の連敗ショックを吹き飛ばしたのは、新井貴浩内野手(35)だった。5番一塁で先発し、1回2死一、三塁で左翼へ先制タイムリー。打点を25とし、セ・リーグトップのヤクルト・バレンティンに並んだ。8回には右翼戦に二塁打を放ち、猛虎打線復活を印象づけた。打つべき人が打てば、こんな勝ち方もできるってことです。

 再出発の航路を切り開いたのは新井だった。初回2死一、三塁。試合前、異例の全体ミーティングで結束を誓い合った猛虎にいきなりチャンスがきた。重苦しい空気を振り払うようにバットを振り抜いた。オリックス中山の内角球につまりながらも左前へ。気持ちでたたき出した先制点だった。

 「仲間を信じて、とにかく後ろの打者につないでいこうと思っていました」

 これぞ昨季、打点王の仕事だった。今季25打点目。ヤクルト・バレンティンに並んでリーグトップに返り咲いた。8回にも二塁打を放った主砲は試合後、交流戦初勝利の立役者としてマイクの前に立った。ただ、それだけではない。和田監督は8得点のポイントを問われると迷わず7回無死二塁での新井の進塁打を挙げた。

 「新井の進塁打が大きかった。マートンの3本も大きかったが、つなぎが大きな要素をもっていた。こういう姿勢が出始めた。新井はクリーンアップを打つ選手。いつもこうではいけない。ただし1点を取りたい時は全員でいく姿勢でやっていきたい」

 3-2と追い上げられ、どちらに転ぶかわからなかった展開の中、自らを犠牲にして勝負の1点を演出した。指揮官は今後への希望を見いだした。

 忘れられない光景がある。06年、新井は第1回WBC日本代表として米国の土を踏んだ。優勝のポイントは日米、各球団から集まったスター選手がいかに結束できるか。そこで見たのは控えにまわった宮本、和田、谷繁らベテラン勢が練習中に率先して裏方仕事を買って出る姿だった。特に最年長の宮本が球拾いをする姿は胸に響いた。

 「宮本さんと、僕は見ているところが同じだった。野球もそうだし、人の見方もね。『私』に走らず、常に『公』を考えて行動する。そういう人だった」

 新井がこの日の進塁打を振り返った言葉がこれだ。

 「追加点がほしい展開だったので。マートン、ナイスバッティングです」

 自分は前に出ず、そっと悩みの中にいた助っ人をたてた。そんな新井によれば、試合前、選手たちで目標を再確認し合ったという。

 「僕たちは優勝を目指しているわけだから。まだまだ、これからなんです」

 「献身」を旨とする主砲が引っ張る猛虎打線。5ゲーム差など跳ね返せないはずはない。反撃はこれからだ。【鈴木忠平】

 ▼新井が2安打し、9試合ぶりにマルチ安打。今季マルチ安打は10試合目で、7勝2敗1分け。岩田が勝ち星を挙げた3試合では、いずれもマルチ安打でアシストしている。打点を挙げたのは3戦ぶり14試合目。その間8勝4敗2分けと大きく勝ち越している。