<阪神9-9ロッテ>◇30日◇甲子園

 神風が吹いた。4回、阪神ブラゼルの内野フライを二塁手井口が落球し、さらに大和のフライが相手野手陣の“お見合い”を呼び3点二塁打に。いずれの飛球も、いつもと逆に吹く左翼から右翼方向への風にあおられた。8回は敵失で同点。勝利まであと1歩だったが、和田阪神がついに運を味方につけた。

 和田阪神に“神風”が吹いた。6点差とされ、敗色濃厚ムードが漂っていた4回無死一塁、ブラゼルが二塁後方へ高々と打ち上げた。「ああ~…」。甲子園にため息がこだました。だが、次の瞬間、信じられないことに井口がこれを落球。無死一、二塁とチャンス拡大。しかし、これで終わりではなかった。

 1点を返して、なお2死満塁。期待を背負った2番大和は左翼へ打ち上げてしまった。「あああ~…」。再びため息に包まれた。だが、今度は、この飛球を遊撃根本と左翼サブローが譲り合い、左翼前にポトリと落ちた。サブローがあわてて処理したが、あきらめずに走っていた一塁走者平野までがホームへ滑り込んだ。走者一掃の3点適時打で1点差。この回の5得点が、同点劇につながった。

 両軍とも、ミスが続出しながらの壮絶な点の取り合い。今季初めて6点差を追いついた試合を、和田豊監督(49)はこう振り返った。

 「やることはすべてやった。よく、あきらめないで最後まで追いかけた。(全力疾走は)当たり前といえば、当たり前なんだけど、上がった瞬間に何か起こると思って走っている」

 この日、バックスクリーン上の旗は右翼方向へはためいていた。いわゆる「浜風」とは逆。普段、千葉マリンの強風で鍛えられているはずの男たちが、ひと味違った風に右往左往した。ただ、そこにつけ込むことができたのは、平野が大和の飛球に対してあきらめることなく、全力で本塁を目指していたからだったと指揮官は言う。また、その裏には甲子園の風を知り尽くした虎戦士たちの予測もあっただろう。

 「やるかなあとは思っていたよ。きょうは逆やったから。魔物やな…」。

 浜風を知り尽くす山脇守備走塁コーチはこうつぶやいた。相手にとっては魔物。味方にとっては神風。交流戦はまだ1勝しかできていない本拠地だが、やはり阪神の味方だった。【鈴木忠平】