<DeNA3-6巨人>◇5日◇横浜

 巨人高橋由伸外野手(37)が決勝弾を放った。2-2で迎えた4回、巨人戦初先発初登板のDeNA加賀美から左中間へ6号ソロ。「初モノ」を打ち砕き、最下位相手の連敗を阻止した。6月23日ヤクルト戦での守備で左膝を負傷。1本足打法の軸足を痛めたことからスランプに陥ったが、周囲に悟られないようにプレーを続けていた。入団から15年、常に巨人をけん引してきた由伸には、野球に対する一貫した「美学」がある。

 うつむいたまま高橋由はダイヤモンドを駆けた。ライナーで中堅左へ運んだ。桐蔭学園高の後輩、加賀美に力の差を見せつけた6号ソロ。原監督に背番号24をたたかれ、やっと笑った。「どんな形でもヒットが出ればいい。ヒットが出ることによって変わってくれば」。決勝アーチの言葉としては少し威勢がなかった。

 高橋由は言い訳をしない。身内にも弱みを見せない。自分自身の美学と闘っていた。

 前夜の試合、事件があった。1点を追う8回。空振り三振に倒れると、バットをたたき悔しがった。グラウンド上では感情をあらわにしない。でも限界だった。リーグ戦再開後、6月24日から急に打てなくなった。この三振で22打数2安打。打率が2割3分台に落ちた。

 背景に何があったのか。6月23日ヤクルト戦、8回の守備だった。右邪飛にスライディングキャッチを敢行。フェンスに左ひざを打ち据えた。「ラバーがあれば良かったんだけど」。東京ドームの外野フェンスは、グラウンドとの境目がむき出しになっている。コンクリートにぶつけた。

 翌24日。「大丈夫だよ」と顔は笑っても左足を引きずり、ゆっくり球場入りした。ユニホームを着ると平静を装った。仲間も全く気付かない。でもティー打撃から左足が震えた。代名詞の美しい1本足が揺らいだ。無安打の試合後。原監督から「今夜は寝ずに対策を練らないと」と言われた。

 「打てないんだからね。結果が出ないんだから。何を言われても仕方がないよ」と穏やかでも、人懐こい笑いじわがなかった。6月30日に今季初めて欠場。打線が好調の中、1人静かにもがいていた。この日の本塁打直前、またスライディングキャッチをした。攻守に全力を通し、悟られないまま闇を抜け出した。

 譲れない信念がもう1つある。巨人は今季、状況によって見逃し三振を認めるチーム方針を出した。だが好打者は自分なりの解釈を加え、甘えを排した。

 高橋由

 言葉に甘えてはいけないと思う。見逃し三振がチームにとってベターな結果かと言えば、違う。打った方がいい。くさいボールをカットし、絞った球を打ち返す。それがベター。そこを追求しなくては、技術の向上は止まる。

 「結果がすべて」と引き揚げた。巨人の真ん中で15年。決勝ソロには、経験から得た美学が詰まっていた。原監督を「本来の打撃。由伸がしっかり、あの位置にいてくれればいい」と納得させた。【宮下敬至】