<西武2-1ソフトバンク>◇5日◇西武ドーム

 野球人生初の大仕事をやってのけた。西武秋山翔吾外野手(24)が、劇的なサヨナラ本塁打で試合を決めた。同点の9回、柳瀬から右翼席へ4号ソロ。左股関節痛を抱える中、気持ちで打った1発だった。チームも今季初のサヨナラ勝利。2位日本ハムとの差を1・5ゲームに広げ、4年ぶりVへ、さらに勢いを加速させた。

 あふれる感情を抑えることができなかった。一塁ベースを回った秋山は右手を天に突き上げ、両腕で力強くガッツポーズを決めた。控えめな男が見せた“ド派手”なパフォーマンス。野球人生初のサヨナラ本塁打に、心の沸点は限界を超えた。「今までにないくらい興奮して、わからなかったです」。湧き起こる歓声、仲間の笑顔とハイタッチに、本能だけで応えた。

 自身の野球史に新たな1ページを加えたのは、プロ初の“放物線”だった。9回無死、初球のフォークを、指2本分短く持ったバットで振り抜いた。手に残ったのは「初めて打った瞬間に入るかなという手応え」。目標とする打者の1人に挙げる高橋由に匹敵する、美しい放物線だったが「打ち慣れている人だったら、優雅に(ベースを)回ると思いますけど、速く回ってしまった」。余韻に浸る余裕は、全くなかった。

 勝ち取った“居場所”を、簡単に手放すわけにはいかなかった。開幕スタメンを期待されながら、ケガで2軍スタート。4月末に昇格し、中軸を任されたが、またもケガで離脱した。その間、大崎、星秀、熊代らが必死のアピール。「もう僕の居場所はないです」と自分を追い詰めた時期もあった。それでも、後半戦から2番に抜てき。なりふり構わぬ思いで、バットでも守備でも貢献した。

 痛みにも打ち勝った。1日のロッテ戦で左股関節を負傷。2日の同戦を欠場し、3日の休養日には治療院を2軒訪れた。この日も早朝に治療院を訪れ、連日の酸素カプセル。痛み止めを服用しながら、決戦の場に立ち、チームを救った。今季初のサヨナラ勝利に、渡辺監督は「びっくりしたね。打った瞬間だった。勢いに乗れる勝ち方」と興奮を隠しきれなかった。2位日本ハムが敗れ、ゲーム差は1・5に拡大。栗山、片岡の主力が抜ける中、2年目の若武者が「ラッキーボーイ」に名乗りを上げた。【久保賢吾】

 ◆秋山翔吾(あきやま・しょうご)1988年(昭63)4月16日、神奈川県横須賀市生まれ。横浜創学館-八戸大。10年ドラフト3位で西武入団。昨年は球団の新人外野手として30年ぶりに開幕スタメンで起用され、チーム屈指の強肩と守備範囲の広さで110試合に出場した。人気マンガ・天才バカボンのキャラクターに似ていることから「ウナギイヌ」と呼ばれることも。183センチ、86キロ。右投げ左打ち。背番号55。推定年俸1800万円。血液型A。