<オリックス10-8ヤクルト>◇16日◇京セラドーム大阪

 33歳の地味な男が、その瞬間、ヒーローに変身した。6回裏のオリックス大逆転劇。5点差を追いついて、なおも2死一、二塁。球場に突然、「逆転イッパツマン」の主題歌が流れた。ファンに01年の奇跡を思い出させた。優勝を決める代打逆転満塁本塁打を放った北川のテーマ曲。当時の復刻ユニホームに袖を通した辻が、ミラクルを再現した。

 「あの人も苦労してきた方。僕もそれに乗れたらいい。集中力は常に高めていた」

 七條の内角シュートを捉え左中間を破る決勝の2点タイムリー二塁打。チームの連敗を「3」で止めた。

 07年にトレードでロッテから移籍。過去3年は計18試合に出場しただけ。今季も2軍暮らしが続いた。プロ12年目の男は腐らずに出番を待った。ウエスタンで打率3割4分2厘を記録。そして前日15日に1軍昇格が決定した。「ガムシャラに、がんばってこい!」。2軍打撃コーチの北川からメールが届いた。

 置かれた立場は分かっている。「これが最後かもしれない」。スタメン出場を知ると、すぐに家族に連絡した。「試合の途中に来るかもしれなかったから、始めから見てもらおうと」。長い2軍生活。2人の子どものつぶやきが耳から離れない。「何で風船を飛ばせないの?」。7回裏の恒例行事は1軍のもの。この日は父の日。ジェット風船が舞う直前に、パパは勇姿を見せた。

 お立ち台を降りると、辻は右翼方向へ走った。側転からバク宙を披露。小さい頃、憧れだった西武秋山のパフォーマンスだ。「プロでいつかは…」とひそかに練習してきた。信じていれば、夢はかなう。苦労人が12年目のスポットライトを浴びた。【田口真一郎】

 ◆辻俊哉(つじ・としや)1979年(昭54)7月14日、山梨県生まれ。甲府工から国士舘大に進み、01年ドラフト5巡目でロッテに入団。02年5月29日の近鉄戦でプロ初出場。07年にトレードでオリックスに移籍。178センチ、82キロ。右投げ右打ち。推定年俸1100万円。