<阪神1-0ヤクルト>◇17日◇京セラドーム大阪

 正直いって、鶴くんには裏切られた。猛烈にいい意味でだ。2年ぶり先発で、相手は新人ながらハーラートップ12勝のヤクルト小川。どうなるものやと思っていたけど、どや、この安定感。自己最長7回を4安打でゼロを並べ堂々と投げ勝ち、後半戦初の3連勝をもたらした。こんな男が出てくるなんて、ひょっとして巨人にも追いつく!?

 夢はいつかかなうもの。ドリームズ・カム・ツル~。

 鶴の恩返し。いいや、倍返しの始まりだ。苦しんだ先で、最高の笑顔を浮かべた。阪神鶴直人投手(26)は1141日ぶりの先発勝利。身を乗り出すように見つめた9回ヤクルトの攻撃。昨季1年間ブルペンで苦楽をともにした福原が締めると、安堵(あんど)と感謝の思いがこみ上げた。「重みが違いますね」と、しみじみ言った。自己最長に並ぶ7回を投げ無失点。11年10月24日以来の1軍先発で、10年7月3日巨人戦以来の先発勝利を挙げた。

 長いファーム生活で本来の投球を取り戻した。先発に再挑戦するため、長距離ランニングを取り入れスタミナを強化した。打者の手元で変化するツーシームの精度も追究。「全ての面でレベルアップしてないといけない」。打たせて取る投球術を高め、チャンスをものにした。

 中西投手コーチからは「真っすぐをボールにして、スライダー、ツーシームでゴロを打たせるように」と送り出された。毎回のように走者を背負ったが、教え通りの投球に徹した。4回は先頭川端を内野安打で出塁させたが、バレンティンを変化球で遊ゴロ併殺。7回先頭のバレンティンに二塁打されても「絶対に点は与えない」と後続を断った。7回で奪った三振はわずかに1つ。13アウトをゴロで稼ぎ、本塁進入は許さなかった。

 13年シーズンを前に、誓いを立てていた。「勝ちに貢献できるピッチャーになりたい」。昨年は1年間フルで1軍で戦ったが、大差のついたゲームの救援登板がほとんど。セットアッパー、ストッパー、スターター。勝敗に関わる地位で戦うことを目指していた。

 2月キャンプから先発に挑戦し、オープン戦まではローテーション争いに食い込んだ。しかしルーキー藤浪、同じく転向組の左腕榎田らが台頭し出遅れた。開幕をブルペンで迎えたが、与えられたのは昨季と同じ役割。その上、本来の投球を続けられず2度の2軍落ち。6月10日から長い長いファーム生活を送った。苦しみ抜いた先に、うれしい勝利が待っていた。

 お立ち台で「ファームでは監督、ピッチングコーチ、すべての人に付きっきりで指導していただいた」と感謝した。この日セーブを挙げ、お立ち台で並んだ福原にも気持ちがこもっていた。「ここでは言えないこともありましたけど、気にかけてもらってありがたいと感じていました。なんとか恩返しというか、見返してやろうという思いがあった」と胸の内を明かした。

 この1勝が、支えてくれた人たちへの恩返しになった。シーズンも終盤にさしかかったところから「鶴の倍返し」が始まった。【山本大地】<阪神鶴の歩み>

 ◆06年

 高校生ドラフト1巡目で入団1年目。2軍でも登板なし。07年も1試合、1イニング登板のみ。

 ◆08年

 1軍デビューも先発で1死も奪えず降板。防御率無限大のまま。

 ◆10年

 5月にプロ初勝利。21試合登板、うち12試合で先発して2勝。

 ◆11年

 先発で5試合も未勝利で2敗。

 ◆12年

 救援で43試合に登板。1勝5ホールド。防御率1・89。

 ◆13年

 開幕ローテーション争いから脱落。この日まで中継ぎで17試合、2勝1ホールドも1、2軍往復。