<ヤクルト8-2DeNA>◇30日◇神宮

 バットが折れようが、もはや関係ない。ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(29)が今月18本目となる52号ソロを放ち、シーズン歴代本塁打数で野村克也(南海)落合博満(ロッテ)に並ぶ5位タイに浮上した。4回、DeNA吉川の低め143キロシュートに、バットをへし折られながらも左翼席へ運んだ。今季からバットをメジャー時代に愛用していたメーカーに変更。慣れ親しんだ「相棒」とともに、プロ野球記録の55本塁打まであと3本とした。

 規格外の1発だった。4回1死、バレンティンの3打席目。1ボールからDeNA吉川が投じた低め143キロのシュートが、バットの届く範囲に来た。「ストライク周辺の球は何でもいいから打つ」。腕を伸ばし、思い切りひっぱたいた。

 打った瞬間、グリップに割れ目が入っていた。それも、お構いなしで振り抜いた。「ポール際は打球が伸びるからね」との思惑通りに打球は左翼席に届いた。プロ野球記録の55本塁打まで残り3本となる52号に沸く観客は、まさかバットが折れているとは知りもしない。「感触はまあまあだった」と、ドヤ顔でベースを1周した。

 集中力が研ぎ澄まされてきた。前日29日の中日戦で右膝に自打球を当てたが、試合前には「勝負してくれれば本塁打は打てる」と自信を見せた。その一方で「DeNAはココちゃん(バレンティンの愛称)を怖がっているよね」とも言った。試合前までDeNA戦は13試合で20四球と、極度に警戒されていた。「1球くらいしかストライクは来ない」と、2打席連続四球後にひと振りで仕留めた。

 今季52本のアーチのうち、24本はファーストストライクを捉えたもの。一撃必殺を可能にする「新相棒」の存在も大きい。今季から米国時代に使用したオールドヒッコリー社製のバットを使用。材質はロックメープルという、アパラチア山脈で石灰を大量に含んだ特殊な水が流れる土地で育った木材だ。普通のメープルより硬く、湿気にも強いため、反発力が高い。

 型にもこだわりがある。同社のアジア総代理店を務めるアイスポーツ社の小林充氏(49)は「長距離打者といえばグリップが細く、先端にいくにつれて太くなるバランスで遠心力を使って飛ばす」というが、バレンティンのは長さ86センチ、重さ880~900グラムと操作性重視タイプ。同氏は「バランスが平均的。あれだけ飛ばすのにびっくりでしょ。おかげで打率が上がっていると思います」と分析した。来日2年間で蓄えた知識と技術を生かせるバットで確率を上げている。

 「暑ければ自分のバットもホットになるんだ」と豪語する。夏真っ盛りの8月に本塁打18本で、自身が28日に樹立したばかりの月間本塁打記録を更新するとともに、首位打者と絶好調を維持している。52本は歴代5位タイ。「素晴らしいこと」と喜びつつ、ちゃめっ気たっぷりに言った。「でも1番が好き。さらに上を目指して頑張っていくよ」。あと3本。頂上が、はっきり見えた。【浜本卓也】

 ▼バレンティンが今月18本目となる52号。シーズン52本以上は02年カブレラ(西武)以来7人目で、チーム114試合目の52号はカブレラの123試合目を抜いて最速。セ・リーグの右打者では50年小鶴(松竹)の51本を抜いて最多。これで神宮球場では今季42試合に出場して32本塁打。同一球場でシーズン32本は64年王(巨人)が後楽園球場でマークした最多記録に並んだ。今月21日からは9戦10発となり、こちらも64年4~5月王、70年6月王、81年7月門田(南海)に並ぶタイ記録。プロ野球の月間本塁打記録を更新したバレンティンが、8月最後の試合で98年6月ソーサ(カブス)がマークした月間20本のメジャー記録に挑戦する。