<阪神6-9巨人>◇8日◇甲子園

 巨人に牙をむけ!

 阪神桧山進次郎外野手(44)の叫びが、意地の反撃打になった。代打の神様が、7日に今季限りでの引退表明後、初めて登場。9回1死一、三塁から通算代打打点を108とする適時打を放った。1イニング9失点を喫した屈辱の展開。それでも最後まであきらめない-。プロ22年の生き様をファンに、後輩に見せつけ、5点の反撃を呼び込んだ。

 涙するファンがいた。悲鳴にも似た「桧山~!」という叫び声が、聖地のグラウンドを包み込んだ。キャプテン鳥谷をはじめ、ナインは一塁ベンチから身を乗り出さんばかりの勢いで左打席を見つめる。一種異様な雰囲気の中、桧山は「神様」であり続けた。

 桧山

 今日は本当に、いつもより特別な雰囲気だった。ファンの声援に応えられてうれしい。ベンチのみんなも出迎えてくれてね。

 代打桧山がネクストバッターズサークルに姿を見せた瞬間、割れんばかりの大歓声が起こった。8点を追う9回1死一、三塁。前日7日に現役引退を表明後、初めての打席。2ボール1ストライクからの4球目、一岡の外角高め146キロ直球にバットをぶつけた。

 桧山

 直前に2ボールから真っすぐを狙ってファウルになって。あ~振りすぎているな、と。若干詰まったけど、ええところに落ちてくれた。

 冷静な判断は健在。中堅左に飛球が弾む。適時打を決めて代走を送られた時にはもう、甲子園全体が息を吹き返していた。1番上本、途中出場で入った2番坂、3番浅井が3者連続タイムリー。最終回に7安打5得点で3点差まで迫り、虎は力尽きた。

 桧山

 試合に負けたんで、個人的なことを言うのはあれですけど…。今日はみんながつないでくれて出番が来た。

 感謝した。照れ笑いで「それはどうやろ」と否定したが、桧山の粘りが、ひと振りにかける思いが、大逆襲をけん引したのは紛れもない事実だ。長年グアム自主トレを共にしてきた浅井は「勢いが打たせてくれた」と振り返った。「桧山さんが、ああいう展開でも諦めたらアカンという打席を見せてくれた」。西岡はナインの気持ちを代弁した。人は桧山を「代打の神様」と称する。「神通力」はいまだ衰えを知らない。

 シーズンは残り23試合。その先にはCSが待っている。「ベンチにいるからには戦力として考えている。ああいう場面がこれからもあると思うし、他の選手は打席をしっかり目に焼きつけてほしい」。和田監督の「代打の神様」への信頼は変わらない。22年間の終着点が近づいてもなお、色あせない存在感。「日本一」という忘れ物を取りに行く-。全身全霊をかけた桧山の一挙手一投足が、虎の力に変わる。【佐井陽介】

 ▼桧山が代打通算745度目の起用で通算157安打、108打点目(いずれもセ・リーグ2位)。今季に限れば巨人戦は8打数4安打で打率5割、3打点と対セ最高の数字をマーク。