<ヤクルト4-2DeNA>◇29日◇神宮

 最多勝と新人王のダブル受賞をほぼ確実にした!

 ヤクルトの「ライアン」こと小川泰弘投手(23)がDeNA打線を6回5安打2失点に抑えて16勝目を挙げ、ハーラー単独トップに立った。15勝で並んでいた広島前田健の先発登板は残り1試合の見込みで、あと1試合に先発予定の小川の最多勝受賞が近づいた。新人王を争う巨人菅野には3勝差をつけており、99年の上原(巨人)松坂(西武)以来となる新人の最多勝が見えてきた。

 順調だったライアンが突然崩れた。6回。豪快なフォームから投じた球は、2安打無失点に抑えてきた球とは違った。球速が出ない。制球も微妙にずれる。「あれ?

 と思った」と異変に気づいたが、1死から2連打を浴びると、最も警戒していた4番ブランコに2点適時打を食らった。

 ここからが最多勝を争う小川の真骨頂だった。1死一、二塁で「ゲッツーを打たせよう」とカットボールで「最高の形」という三ゴロ併殺に多村を仕留めた。異変に気づいても焦らず、リードを保ったまま6回2失点で降板。リリーフ陣が踏ん張り、16勝目を手にした。

 最多勝争いでハーラー単独トップに立った。だが「最多勝を取るために勝つんじゃなく、チームのための1勝です」と言った。その言葉の背景には、尊敬する投手の1人である「日本のエース」の存在があった。

 「どこに目標を置いて投げているんだろう」。今季22連勝で無敗を続け、パ・リーグ初優勝に貢献した楽天田中を見て、ふと思った。小川も勝ち星を積み重ねてきたが、8月にぱたりと勝てなくなった。「ずっと勝ち続けるのは難しい。どうしているんだろう」。オールスターで聞けなかった、エースの神髄。関係者を通じて耳にしたのは「チームの勝利のために投げ続けること」だった。「僕の考え方は間違っていなかった」とあらためて認識した。

 だから最多勝も新人王も、頭から消してマウンドに上がった。チームを勢いづけるべく「最初から飛ばしていこう」と、バテることを恐れずガンガン行った。小川監督が「立ち上がりは今年一番良かったと思ったけど、5回くらいからおかしくなった。力みからああいう形になったのかな」と振り返ったように、内容的には決して良くはなかった。それでも、チームが勝ち、自分も勝った。小川は「チームが勝つためにどうすればいいかをしっかり意識したうえで、勝ちがつくのが理想。そういう気持ちがチームのためになる」と納得の表情を浮かべた。

 今後について、小川監督は「前田健は5日に投げるという話もあるし、ちょっと決まらないかな」と、5日広島戦か8日の巨人戦で登板させる予定。それでも、前田健が残り1試合登板となるため、最多勝はほぼ確実。新人王も巨人菅野を引き離し、こちらもほぼ手中に収めたと言っていい。だが、小川は「チームのため、ファンのために戦った結果、ついてきたら一番いいですね」と笑った。一喜一憂せず、ライアンがダブル受賞に突き進む。【浜本卓也】

 ▼小川がリーグ単独トップの16勝目。新人で16勝以上は99年の上原(巨人)20勝と松坂(西武)16勝以来、14年ぶりになる。小川はまだ4敗しかなく、勝率8割もリーグトップ。セ・リーグは今年から最高勝率の表彰(72年以来)が復活し、小川は勝利と勝率の現在2冠だ。新人の最多勝は99年上原と松坂まで過去10人いるが、そのうち勝率8割以上は37年秋の西村幸(タイガース=勝率8割3分3厘)と99年上原(勝率8割3分3厘)だけ。勝率8割以上の最多勝ならば、新人では3人目の快挙だ。