昨年10月24日に行われたプロ野球ドラフト会議から2カ月あまりが過ぎた。中日から1位指名された聖隷クリストファー・鈴木翔太投手(3年)の心構えにも、時間の経過とともに変化が出てきた。これまで1年目は体作りとしていたところから、シーズン後半の1軍での登板と、目標を上方修正。観客の多い試合ほど燃える右腕が、自らを鼓舞するものと思われたが、プロ1年目に向かう背番号18の口からは、意外な言葉が飛び出した。

 鈴木翔を約2年間取材してきたが、こんな言葉を聞くのは初めてだった。

 「ドラフト1位って重い。こんな重さの中で野球をやったことはない」

 全国屈指の右腕は、いつだって強気で、それが好投の原動力にもなっていた。2年夏の県大会4回戦。優勝大本命の静岡打線を2安打1失点完投でねじ伏せると、試合後には「抑えられる自信があって落ち着いていた」ときっぱり。そのまま夏の同校過去最高となる4強にまでけん引した。ところが続く秋は、ガラガラの球場で打ち込まれる試合もあり、西部地区大会で敗退。投手として類いまれな能力を発揮するには、観客の多い試合の方がいいタイプだった。

 そんな鈴木翔が、大きな期待に弱音を漏らした。中日から外れ1位で指名され、すべてが一変した。報道陣の数は倍増。「言ってないことを書かれましたよ」と、過熱する報道合戦の洗礼も浴びた。地元浜松から近い球団ということもあり、名古屋のテレビ局もたびたび訪れた。プロで初めてつける背番号は「18」。球団のエースナンバーは「20」ながら、それに準ずる数字だ。

 中学時代に所属した浜松シニアが主催した激励会には、OBのDeNA後藤武敏(33)をはじめ約500人が出席。浜松シニアとして後藤以来のプロとなる鈴木翔は、先輩に耳打ちされ「将来はメジャーに行きます」と“宣言”し、大いにわいた。母校の浜松北浜北小から依頼を受け講演を行い、街を歩けば「鈴木翔太じゃない」とささやかれるようにも。すべては、ただのプロ野球選手誕生だけではなく、県高校生投手では6年ぶり、分離ドラフトを除けば初となる「ドラフト1位」だからこそのフィーバーだ。

 そうした空気に接し続けるうちに、プロ入り後の目標にも変化が出てきた。これまでは「焦ったらけがをするので、地道に頑張っていきたい」と口にしていたが、途中からは「1年目の後半には1軍で登板したい」。その理由を問われると「1年目で出ないとおかしいかなと思って」。周囲の声で勢いを得ているという点では、高校での試合と同じように見えても、どこかペースを狂わされているようにも映る。

 ドラ1としての数々のイベントは、鈴木翔の調整に影響している。「この2カ月は思ったより取材が多くて練習できなかった。手元の感覚を忘れないように気をつけている」。週2、3日しか体を動かせなくなった中で、ブルペン投球やウエートトレーニングを行い、プロへの準備を進める。

 ただ、仮契約時に渡されたメニューをこなすうちに「腹筋が割れてきた。下半身も大きくなったと言われる」と笑顔も見せる。その表情からは、やはりプロへの挑戦が楽しみでしかないように見えた。さらに「ドラフト1位」だからこその恩恵もある。テレビの企画で、トップアスリートと共演。「世界が広がっていくのは楽しい」と話に聞き入った。

 これまでも数多くのドラフト1位が生まれ、大活躍する選手もいれば、鳴かず飛ばずで終わった選手もいる。このフィーバーもプロの過酷な競争の一環とすれば、結局はその期待を自身のエネルギーに変えられる能力が問われる。その意味では、鈴木翔に与えられた最初の試練としては相応のものなのかもしれない。

 プロ入り前最後の年末年始はトレーニングをこなしながらも、趣味のゴルフでラウンドデビューしたり浜松シニア時代の仲間と過ごしたりして英気を養った。9日には入寮を控え、11日からは新人合同自主トレが始まる。育成2人を含めた新入団8人の中で投手は5人。鈴木翔にとって、そのうち3人は年上となるが「いつかは超さないといけない」と言い切った。やはり鈴木翔には前向きな言葉が似合う。【石原正二郎】