ゴジラもノックバットを持つと勝手が違った。3日、巨人松井秀喜臨時コーチ(39)が「覚えていない」という、プロ人生初のノック体験。左打ちではなく、8歳ごろまでの本来の右打ちで挑んだが、外野への球筋は不安定だった。まさかの空振りにはスタンドから笑い声。バットも不覚にも折れた。後輩たちに「ゴメン!」と何度も謝った。

 約1時間、計220球のノック。「(右打ちは)左でノックを打ったことがないから。ダメでしたね。芯に当てるのが難しい。ノックバットは普通のバットより芯が先にあるから、普通に打つと詰まる」。ノッカーの難しさを痛感した。

 だが非凡なセンスを感じた人がいる。巨人、WBC日本代表で外野守備走塁コーチを歴任した緒方耕一氏(日刊スポーツ評論家)は言う。「初めてで、あれだけ上げられれば、たいしたもの。フライの角度をつけるのが最初は難しい。すぐにうまくなると思う」と認めた。

 緒方氏は松井コーチに「左で打てないのか?」と聞くと「打てると思うけど、左手でしか球を上げられないから(球が後方から前に来て)難しい」と答えたという。だが右打ちの緒方氏も右手で球を上げて、後方からの球を打っていた。「後から上げた方が構えを大きく取れるから、楽に打球を飛ばせる。左でやってみた方がいい」と、左打ち転向を新米コーチに勧めた。

 松井コーチの恩師、長嶋茂雄終身名誉監督もキャンプ中のノックが名物。ノックを通じて選手とのコミュニケーションを深めた。「1つの技術ですよね」。松井コーチも奥の深さを痛感した。【広重竜太郎】