<西武1-9巨人>◇20日◇西武ドーム

 巨人杉内俊哉投手(33)の危機回避能力が「魔球」を生んだ。7回2死一塁の炭谷への初球。完全に脱力したまま、ポーンと宙へ放り投げた。最初は放物線を目で追った炭谷が、あわててステップを踏んでスイング体勢。だが強引に振った結果は力ない中飛だった。計測不能だったが、時速50キロといわれる日本ハム多田野のスローボールと同等だった。ワイルド杉内から、まさかの超マイルドな1球だった。

 実は偶然だった。「僕の勘違い。サイン違いです。真っすぐを投げようと思っていた」。阿部のサインは、けん制。だが投球の始動時に阿部の様子から察知し、「直球を投げたら捕れない」と切り替えて、遅球で外そうとした。計算外の1球に、炭谷が釣られてしまった。阿部も「まさか銀ちゃん(炭谷)が打つとは」と笑うしかなかった。

 偶然の結果だが、杉内の能力なら必然性がある。投球練習ではフォームの力みを取ることを意識して、山なりのボールを投じる。また投球時にスクイズを感じ取り、チェンジアップをワンバウンドさせて切り抜けたこともある。7回1失点の投球を完了させるアウトを高等技術でつかんだ。

 松本哲も雑技団のようにプロの一芸を披露した。2回2死一塁。炭谷のセンターへの大飛球をフェンスを駆け上がって捕球した。「打った瞬間、ホームランではないな、とは分かった。飛球を見ながら落下点を考えて、最短距離で入れた。練習ではやらないプレーだし、体が自然に動きましたね」。チームを鼓舞する超美技で3回の大量4得点に橋渡しした。

 原監督も2人の妙技をたたえた。「杉内は今シーズンで一番良かった。リズム良く、本来に近い投球。(7回は)投げ損ないではないか。松本はスーパープレー。素晴らしいです」。頼もしき業師が巨人にいる。【広重竜太郎】