隠れた大記録の足踏みから脱した時、巨人阿部慎之助捕手(35)が復調へ前進する。打率2割5分未満に苦しむ主砲の伸び悩む、ある数字に潜入する。

 5月23日のロッテ戦以降、ピタリと止まった。今季3個の死球だ。毎年10個前後の死球を受け、昨季は両リーグトップタイの15死球。通算122死球は捕手では野村克也に並び、トップの田淵幸一の128に迫る。阿部にとっては、隠れたこだわりの記録でもある。

 阿部

 死球は痛みに耐え、チームのために出塁するということ。もちろんケガをしちゃいけない。自分は死球で長期離脱をしたことはない。そうならないようによけるのもプロの技術。もう1個で野村さんを超える。誇れる記録だと思う。

 理不尽な死球を受け入れるつもりはないが、強打者の宿命と受け止めている。日ごろから「200個(歴代1位は清原和博の196個)を目指すか」と豪快に笑い、1000打点に王手をかけていた時は「押し出し死球で達成もいいね」と言っていた。「状態がいいと、死球が増える」。プロ入りから過去13年でシーズン最少の10本塁打に終わった06年は自身2番目に少ない4個しか受けていない。

 打撃の状態のバロメーターだけではない。リードにも多少の影響はある。「相手に厳しく攻められるのは捕手のオレ。だから味方には『安心してドンドン攻めて来い』と言う」。死球には攻守の連鎖がある。

 死球が減った現状を冷静に分析する。「相手は内角を厳しく攻めなくても、抑えられると思っている。外角のヒットゾーンが狭くなっているから、内角をそこそこに外角でも抑えられると攻めてくる」。投手の内角攻めには高い技術が必要。内角へ攻めさせ、狂いが生じた失投を快打してきた。本来のヒットゾーンを取り戻し、阿部の戦いの土俵を取り戻す必要がある。

 今日から反攻の8月が始まる。5日のDeNA戦(新潟)はリーグで与死球トップの久保の先発が予想される。4月1日の対戦では今季初死球を受けた。「このまま終わるつもりはない」。青あざが増えるほど、阿部の闘志が増し、バットが火を噴く。【広重竜太郎】