<巨人3-4阪神>◇12日◇東京ドーム

 二塁ベースの手前で、阪神俊介外野手(26)は自然と拳を握っていた。久しぶりにスタンドの声援を一身に浴びた。1点リードされた3回2死。巨人杉内の直球を無我夢中で振った。

 「真っすぐ系が多かったので。その結果ああいう形になって良かった。感触は良かったけれど、入るとは思わなかった」

 自身も驚きの1発だった。首位攻防第1ラウンド。初回に先制された嫌な雰囲気を一蹴した。懐を突く真っすぐに立ち向かった。「しっかり(体の)軸で回れました」。左翼方向に上がった打球は同点1号ソロ。ベンチ前ではこれでもかと、仲間に頭をたたかれた。前回の本塁打から約3年4カ月がたっていた。

 11年4月15日中日戦(ナゴヤドーム)。4回にソロ本塁打を放った。ただ、試合後の視線はうつろだった。「『申し訳ない』、しかないです。申し訳ないとしか言えないです」。8回2死一塁で盗塁を失敗。打席には投手の代打で出た金本がいた。俊介の盗塁失敗により、金本の連続試合出場が史上2位の1766試合でストップしたのだ。前回の試合後は本塁打なんて忘れていた。

 3年前から立場は変わった。当時「7」を背負った背番号は「68」に。今季の先発出場は試合前時点で19試合にとどまっていた。大和の故障後、空いたセンター。最近は左投手相手でも伊藤隼が使われた。「今日は『ラストチャンスやぞ』とプレッシャーをかけてね。ケツをたたかないとギリギリまでやらない選手やから。ケツをけっ飛ばしてね」。そう話す和田監督からもらったラストチャンスだった。

 5回には無死一、二塁から三塁前へ絶妙なバントを決めた。続く鳥谷の犠飛がこの日の決勝点。「バントはしっかりとやらないといけない。成功できて良かった」。本塁打の感想以上に語気を強めた。2犠打を初球で決め、2番の仕事も100点満点だ。

 「今日しっかり打てたので、これをつなげたい。チャンスをいただいたときにしっかりやりたい」

 首位に0・5ゲーム差と迫る1勝。今回は1発を素直に喜べた。伊藤隼らライバルに堂々の宣戦布告だ。【松本航】