<日本ハム4-3西武>◇9月30日◇札幌ドーム

 今季限りでの現役引退を表明している日本ハム稲葉篤紀内野手(42)が、代打逆転2ラン本塁打で4連勝に導いた。1点を追う7回2死二塁、西武増田から右翼ポール際に運んだ。自身のメモリアルイベント開催日に、バットでも主役となる今季3号。チームの2年ぶりシーズン勝ち越しも決まった。

 また1つ、思い出が増えた。稲葉は無邪気に笑いながらダイヤモンドを一周した。「本当にうれしかった。ずっとニヤニヤして走っていたと思います」。1点を追う7回2死二塁。稲葉ジャンプが終わった余韻を、決勝アーチで切り裂いた。1ストライクからの2球目、144キロのやや内角高めの直球を、きれいにさばいた。自身の引退メモリアルイベントが行われた試合。「今日は自分を褒めてもいいと思います」。主役が漫画のような劇的な一打。チームを2年ぶりのシーズン勝ち越しに導いた。

 現役生活のラストランは「代打の神様」になりつつある。2日の引退発表後、13度の代打機会で11打数4安打4打点2四球。打率は3割6分4厘となった。「CSも監督が、いいところで使ってくれると言ってくれている。自分の調整を、しっかりやることだけ」。9月上旬はスタメン出場も含めて17打席連続無安打と苦しんだが、徐々に復調。短期決戦のポストシーズン。熟練の技を駆使し、勝負どころで流れを変える準備を着々と進めている。

 恩師も見守っていた。愛知の名門・中京(現中京大中京)時代の監督だった西脇昭次氏(66)が観戦。前日29日も来場し、試合後には雑談。3年間で甲子園出場は果たせなかったが、最後は主将を務めた青春の1ページがよみがえった。二ゴロに倒れた前夜の打撃に厳しく指導を受けていた。西脇氏は指摘した。「打つポイントは合っているけど、体が早く開きすぎだ」。この日、稲葉の試合前練習を見て「打ち方が良くなっていたから、今日は打つと思っていたよ」。厳しい内角球に最後まで体を開かなかった。腰の回転で打った愛弟子の最高の恩返しに笑顔を見せた。

 栗山監督も興奮した。「感動しました。野球の神様が稲葉にお礼を言っているようだった」と、独特の表現でヒーローの座を射止めた大ベテランを称賛した。打った稲葉も似たような感動を覚えていた。「野球の神様が最後に、いい思い出を与えてくれた」。レギュラーシーズンは残り3試合だが、チームはポストシーズンを勝ち抜いての日本一が大目標。涙もろい42歳も「(涙は)最後までとっておく」。もっと大きな思い出を追い求める。【木下大輔】

 ▼稲葉が通算7本目の代打本塁打を放った。9年ぶりの代打アーチとなった9月17日西武戦(西武ドーム)の今季2号以来。札幌ドームでの本塁打は、8月14日のロッテ戦以来、今季2本目。最多を誇る札幌ドーム通算本塁打数(2位セギノール46本、3位中田翔41本)を59に伸ばした。