巡業取材は、やっぱり楽しい。何より、写真を撮ることが楽しい。本場所の真剣勝負の場と違って、力士もだいぶリラックス。その表情がやわらかい。

 大砂嵐は「本当は稽古中はサインしないんだよ~」と言いながら、ずっと待っていた子どもたちのサインや写真撮影の求めに応じていた。玉鷲と勢は突然、あっち向いてホイのデコピン対決を披露。魁聖と碧山は怪力自慢の腕相撲で勝負した。両者が腕を置く長机がかわいそうなほどだった。

 巡業でも土俵の内外で体を動かす稀勢の里こそ、ファンを寄せつけないオーラを放つ。だが、一息つくと気の向くままにペンを受け取る。すると、瞬く間に長蛇の列が。苦笑いとともにサインし続けるのも恒例となった。日本相撲協会の公式ツイッターでは山稽古の最中、バク転する三段目富栄の写真などが披露されて話題を呼んだ。そこには、いずれも普段の稽古場では見られない表情があった。

 巡業は、ファンとの距離が近い。そして、その距離感が、どこか“優しい”。SNSなどの発達で優しい表情がより広く、伝わるようになった。勝負にこだわる本場所とのギャップ。そんな姿も、相撲人気の上昇につながっている気がする。

 日刊スポーツでは夏場所(5月10日初日、東京・両国国技館)に合わせ、5月11日と25日付紙面のスマホをかざせば動きだす「AR動画」で、春巡業などの力士のスライドショーを掲載する予定。少しでも多くの豊かな表情を見てもらえたら。本場所とのギャップを、その目で確かめてもらえたら。そうしたらより一層、相撲に興味を持ってもらえる気がしている。【今村健人】