<UFC:88大会>◇6日(日本時間7日)◇米ジョージア州アトランタ

 【山田大介】世代交代の波が押し寄せていたのは、日本の総合格闘技界だけではなかった。米総合格闘技団体のUFC88大会でチャック・リデル(38=米国)が2回1分51秒、ラシャド・エバンス(28=米国)に自身初のKO負けを喫した。リデルは桜庭、吉田らと同学年で「ミスターUFC」と呼ばれる伝説的ファイター。総合格闘技が世界に誕生して15年、リデルをはじめ、創世記を支え続けた男たちがその立場を新世代に譲ろうとしている。

 コンマ数秒の差だった。リデルが放ったこん身の右アッパーがエバンスに届く瞬間、自身のあごが相手の強烈な右フックに打ち抜かれていた。そのままマットに崩れ落ち、ピクリともできない。パンチの衝撃からか、初の失神KO負けという屈辱からか、リデルは試合終了後も数分間は立ち上がれなかった。

 「もう1度、必ずベルトを腰に巻くよ」。4日に行われた事前会見で、リデルは屈託のない笑顔を浮かべていた。05年4月に世界ライトヘビー級王座に就き、以降も4度の防衛に成功するなど「ミスターUFC」と呼ばれてきた。タイトル戦再挑戦権を得るには、勝つことが最低条件の試合。だが5日の前日計量で見せたリデルの体の張りは、約1年前にヴァンダレイ・シウバ(32)を下した時とは明らかに違っていた。「モチベーションは衰えない」という過信が、パンチをかわすリデルの判断をわずかに狂わせた。

 総合格闘技の草分けであるUFCが産声を上げて約15年。リデルだけでなく、創世記を支えてきた伝説的ファイターたちは今、こぞって引退の危機に直面している。リデルと同学年の桜庭は、今年6月のDREAM.4で左腕尺骨を骨折して長期戦線離脱。同じく戦極のエース吉田も、今年6月に白星を挙げるまでの約2年間は3連敗を喫し、一時の勢いは影を潜めた。

 どの団体も人気の高い選手を戦いの場に上げれば、興行収益は上がる。半面、スター選手に「おんぶに抱っこ」となると、「新陳代謝」が鈍る。リデルの屈辱的KO負けは、過渡期を迎えつつある格闘技界の現実を物語っていた。