<プロボクシング:WBA世界スーパーフライ級王座決定戦12回戦>◇15日◇パシフィコ横浜

 WBA世界スーパーフライ級1位の名城信男(26=六島)が薄氷の勝利で王座返り咲きを果たした。同級3位・河野公平(27=ワタナベ)と序盤から打撃戦を展開。クリンチを多用する接近戦に苦しんだが、終盤に真っ向から打ち合ってポイントを奪い、2-1判定勝ち。ジャッジ3者がいずれも1点差の接戦を制し、王座陥落から1年4カ月ぶりにベルトを腰に巻いた。

 フルラウンドを戦い終え、名城は敗戦も受け入れる覚悟だった。リングアナウンサーが読み上げる「新チャンピオン…」のコールに、河野陣営が沸き返る。だが次の瞬間、場内に響いたのは「名城信男」だった。

 1度手放したベルトを501日ぶりに奪い返した。「厳しい試合だった。勝ったか負けたか最後まで分からなかった。夢のよう。2回目のベルトは重たいです」。枝川会長に肩車され、思わず泣きじゃくった。

 なりふり構わず前進する河野のスタイルに戸惑った。戦前は左右ワンツーで距離を取る作戦をたてた。苦手の左ジャブを徹底して鍛えてきた。ただ、やりにくさは想像以上だった。クリンチ際にねじ込んでくるパンチが、採点にどう評価されるか分からず、試合中に会場の大型スクリーンで自分の戦う姿を何度も確認した。

 迷っている間にラウンドが過ぎた。8回を終えジャッジ2者が1~2点差で河野を支持していた。セコンドの藤原トレーナーが9回開始前、初めて名城を怒鳴った。「きれいなボクシングはやめろ。開き直って打ち合え」。目が覚めた。カウンターの右アッパーが効果的に決まり、ポイントで逆転。「日本人対決だし、元王者として負けたくなかった」。最後は意地とプライドで、きわどい判定勝利をもぎ取った。

 昨年5月にムニョス(ベネズエラ)に敗れプロ10戦目で初黒星。以来、取り組み方を変えた。医者嫌いの男が練習前に毎日整骨院に通って体のケアに専念。敗戦前の練習日記を見返して、悔しさを発奮材料にした。2カ月間かけて計画的に体重を落とすため、料理人の父建伸さん(53)の手を借りず、魚料理を中心とした減量メニューを自炊していた。

 「1つでも多く防衛したい」。国内史上8人目の同一王座返り咲き。勝利の味を深くかみしめ、長期政権を誓った。【大池和幸】