史上最多記録を更新する36度目の優勝を目指す横綱白鵬(30=宮城野)が、過去12戦無敗の小結隠岐の海(30)に敗れる波乱が起きた。場所前に耐震構造の問題で部屋の移転が決まり、この日から新しい土俵で稽古を開始。場所前も出稽古続きで調整するなど、環境の変化が影響したのか-。他の横綱大関陣が順当に勝利する中、最強横綱だけが黒星を喫した。

 まさかの結末だった。隠岐の海に寄り切られた白鵬は、小さく首を振った。座布団が飛び交う中、ゆっくりと支度部屋に戻ると「言うことないんじゃないの。見ての通り」と負けを認めた。大相撲中継の解説の北の富士氏(元横綱)に「予想だにしなかった」と言わしめるほど、誰もが驚く敗戦。他の横綱大関陣が全員勝利する中、最後に落とし穴が待っていた。

 らしさがなかった。得意の右差しをおっつけで封じられ、左四つ。相手に巻き替えられ、一瞬もろ差しを許してしまった。すぐさま右を巻き替えにいったが、前に出られた。「巻き替えた瞬間、同時で前に出た。そこらへんの勝負勘が良かった」。四つ相撲の正攻法で敗れ、過去12戦で負けたことのない相手をたたえるしかなかった。

 過去35度の優勝を支える盤石のルーティンが、崩れた。これまでは番付発表後の1週目に部屋で稽古、2週目に出稽古で仕上げてきた。だが部屋の耐震構造問題で移転が決定。部屋で稽古できず、最初から出稽古を強いられた。新しい部屋で初稽古したこの日は、約1時間汗を流し「土俵の大きさは一緒だから」と話していたが、部屋の外では祭りが催されるなど、いつもと環境が違った。部屋の力士の中には「今日は気が散っていた」と話す者もいた。どこかで歯車が狂ったのかもしれない。

 横綱昇進後、初日黒星は夏場所の逸ノ城以来6度目。そのうち3度は優勝した。大鵬さんの優勝記録を更新後は、年1度のモンゴル相撲で6度優勝した父ムンフバトさんに並ぶ36度目の優勝(年6場所の大相撲で換算)を目標にしてきた。場所後の来月3日には、両親も招待して史上最多優勝記念パーティーを行う予定。花を添えるためには、逆境を乗り越えるしかない。【桑原亮】