NHKのドキュメンタリー「長江 天と地の大紀行」を撮った竹内亮監督(45)が、10年ぶりに長江6300キロを源流までさかのぼった。

「劇場版 再会長江」(4月12日公開)は、そこここでの「再会」を折り込みながら、中国10年の変化を映し出している。

前作では中国生まれの俳優・阿部力(42)をナビゲーターにすえた監督も、中国在住8年を経て、今回は流ちょうな中国語で自らカメラの前に立った。

政治的観点をいっさい排し、ひたすら旅人目線で人々や風景を見つめているところがこの作品のミソで、あるがままの生活が浮かび上がる。

河口の街、上海はビル群が急拡大しているにもかかわらず「なんか前より小さく見える」。子ども頃に巨大さに驚いた奈良の大仏が、大人になって再訪した時に妙に小さく見えたことを思い出す。そんなあるある感覚が、旅気分を膨らませる。

巨大な三峡ダムの圧巻は10年前と同じだが、優雅なフェリーが何隻も行き来する様子が、経済発展を印象づける。10年前の移動手段となった貨物船の船長と感動的な再会を果たす監督だが、船長の誘いを断ると、ちゃっかりフェリーで移動する。この作品の旅人気分を象徴するエピソードだ。

一方で、河川の合流で切り立ち、坂道の多い重慶市では、荷物担ぎの伝統的職業バンバン(棒棒)の70歳過ぎのベテランに密着。経済拡大とは無縁の人々や差別を映し出す。

「古い」とやゆされてきた少数民族モソ族の母系社会が、女性進出の「先駆け」として評価される皮肉や、空を映すロコ湖の息をのむ美しさ…奥まるに従って多彩になる光景は「大国主義」とは別の意味で中国の大きさを印象づける。

クライマックスは、チベット族の女性ツームーとの再会だ。何もない草原でヒツジとの記念写真で小銭を稼いでいた彼女は「ペンション・オーナー」の夢を果たしている。

目的達成までには労苦もあったはずなのに純真さを失わない彼女の「美しさ」は胸を打つものがある。監督のことを「よく覚えている」と言いながら、ドンドン(阿部力)のことばかり話す姿に、監督の表情がやや曇るところが面白い。

そして、前回果たせなかった「長江源流の最初の一滴」はカメラに収められたのか。旅の終わりにもこの作品らしい味わいがある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)