9日に世界約190ヶ国に同時配信されたNetflixオリジナル映画「アウトサイダー」の特別試写会が7日、米ロサンゼルスのNetflix本社で行われました。Netflixオリジナル映画としては初の日本を舞台にした作品で、全編日本ロケを行った同作は、「ダラス・バイヤーズクラブ」(14年)でアカデミー賞助演男優賞を受賞したジャレット・レトを主演に、俳優の浅野忠信や椎名桔平、女優忽那汐里ら豪華日本人キャストも出演。終戦後の大阪を舞台に、捕虜となって投獄されたレト演じる米兵ニックが、刑務所で浅野演じるヤクザを助けたことをきっかに極道の世界に足を踏み入れていく物語です。メガホンをとったのは、アカデミー賞外国語作品賞にノミネートされた「ヒトラーの忘れもの」(15年)で知られるデンマーク人のマーチン・サンフリート監督で、大森南朋、田中泯ら演技派が脇を固めています。日米関係者およそ100人にお披露目された上映会を前に、浅野ら日本人出演者とサンフリト監督が取材に応じました。

 ニックが極道の世界に入るきっかけを作ったヤクザの清を演じた浅野は、「マイティ・ソー」シリーズや「沈黙-サイレンスー」(16年)「バトルシップ」(12年)など数多くのハリウッド映画に出演した経験から感じるものもあったようです。「デンマーク人の監督が、義理・人情など日本人が感覚で理解していることを把握するのは難しかったと思います。監督やプロデューサーには、これがデンマークのマフィアだったらどうかと言う違う視点で考えてみたらと提案はさせてもらいました。「47RONIN」の時もそうでしたが、説明しても分かってもらえないこともありますが、逆にそこが面白い。監督が近未来の話でも良いじゃないかと言った時、すごく可能性を感じました。日本の話をどんどん海外の人に撮ってもらうには、日本人がもっと寛容にならないと。極端な話でいうと侍が着物を着ている必要はないし、ヤクザに義理や人情がなくてもいいわけで、海外の人から見た目線の映画にもっとチャレンジしていくべきだと思います」。本作はブラッド・ピット主演の「ウォー・マシーン:戦争は話術だ」やウィル・スミス主演の「プライド」などオリジナル映画の製作にも力を入れている動画配信サイトNetflixが、日本を描く初めての作品としても注目されています。「190カ国で同時に観れるなんて今までにないことで、世界は広がっています。どんどん日本に来て、日本の俳優を使う機会を増やして欲しいですね。Netflixがその大きな役割を担ってくれると期待しています。日本人が主役の映画を撮る時には、“俺に任せろ”と言えるようにしておきたいです」。

 清の兄貴分でニックの存在を疎ましく思うオロチ役を演じた椎名は、北野武監督の「アウトレイジ」などでヤクザを演じてきたベテラン。「ヤクザに関しては経験があるので、世界観については我々に任せてもらうと言うか、こういう言い方、話し方をするとかを演技で見せて、言葉は通じませんが“ヤクザってこうなんだよ”と伝えることを重ねていく感じでした。日本のヤクザ映画とは撮り方が違いますが、日本の文化に対しての敬意や美意識は持っていますから、指を切るシーンや切腹のシーンなどとても丁寧に描かれていて、(撮影していて)あまり違和感を感じませんでした。いわゆるこの作品とは真逆のマーチン監督の前作はとても素晴らしい作品だったので、こういう映画を撮る人が日本のヤクザ映画を撮ったらどうなるんだろうと言う期待しかありませんでした」。「ダーク」(16年)でハリウッドデビューを果たし、今作が2作目。「高倉健さんと松田優作さんが出演した「ブラック・レイン」を観て、私たち若い俳優たちは“自分たちもいつかこういう舞台に立ちたい”と盛り上がり、勇気と希望を与えてくれました。日本を舞台にした作品が増えることは、日本の映画界にとって活気を与えてくれることでありがたいですね」。

 清の妹で、ニックと禁断の愛に陥る美由役を演じた忽那は、「デッドプール2」への出演も決まるなど国際的な活躍が期待されています。「ハリウッドという舞台を最初から考えていたわけではありませんが、海外の人たちと一緒に仕事をする中でコミュニケーションの問題など大変なことはありますが、興味を持つようになり、今作品のオーデョションを受けました。その延長線上で機会ができたので、挑戦していきたいと思っています」。オーストラリア育ちで英語も堪能なバイリンガルですが、撮影中は苦労もあったと言います。「台本の英語となると、普段の日常会話とは違って難しかったです。ラストシーンは当初は英語の台詞でしたが、監督から何か足りないから日本語にしてくれと言われたんです。英語だとその言葉を伝えようと力んでいたでしょうね。(台詞を)その場で同時通訳をしなきゃと内心は緊張しましたが、それも監督の演出だったと思います」。

 サントフリト監督にとっては、今作が初の英語の作品。「ハリウッドからたくさんのオファーがありましたが、その中でこの作品に一番惹かれました。普通の英語劇ではない作品で、チャレンジしたかったからです。日本版「ゴッド・ファーザー」のようなカッコいい映画にしたいと思いました。だから、当時の写真などで見る世界観とは違うと思いますが、カッコいいヤクザを描きたかったんです」。英語と日本語の台詞が入り乱れる撮影現場では、苦労もあったと言います。「日本人の俳優との仕事はとても素晴らしかったです。日本の文化や上下関係など人間関係について分からないことも多く、互いに理解しあうまで少し時間がかかりましたが、私のことをいつも信用してくれました。たくさんリハーサルをして、時には“このセリフを変えたい”と思う時もあり、それは彼らにとっては大きなチャレンジだったと思います」。

 「アウトサイダー」は、Netflixで好評配信中です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)