新生月組を支える人気スター美弥(みや)るりかは、「ザ・ミュージカル グランドホテル」で憧れの元月組トップ、涼風真世が退団公演で演じた役柄に臨んでいる。涼風を追い掛けていた少女が、23年ぶりの再演で同じ役を得て「パンドラの箱を開けるよう」。恐縮しながらも「この年数やってきてよかった」と男役14年のキャリアをつぎ込む。1月末で兵庫・宝塚大劇場を終えた。東京宝塚劇場は2月21日~3月26日。

 美弥は少女時代、涼風の「おっかけ」だった。

 「子供だったんですけど、退団公演ですから、命を懸けて(笑い)追っかけていたので、歌詞、セリフも覚えています。大切な思い出すぎて、最初は『いやいや、あれは誰もやってはいけない』と! (パンドラの)箱を開けてしまう感じで素直に喜べなかった」

 物語は1928年のベルリンの高級ホテルが舞台。重い病を患う会計士・オットー、多額の借金を抱える男爵ら、1日半の間にホテルを訪れる人々を描いた群像劇。93年の宝塚初演時は涼風のサヨナラ公演として上演され、主人公は余命少ないオットーだった。今回は9年目スピード就任の新トップ珠城りょうが男爵役で主演。美弥にオットー役が巡ってきた。

 「私の中に(涼風の)残像が残りすぎて、ピタッと背中にくっついているような感じがしていました」

 けいこ当初、涼風のコピーになることを恐れたが、昔は理解できなかった人物の背景も見え「私の心が動きだした」と語る。悲観的で神経質なオットーが、人との出会いで変わる姿にも共感を抱くようになった。

 「私もネガティブ。昔はすごく嫌で、自分を変える(自己啓発)本を読みあさった。でも先輩たちの話を聞き、自信がないから努力をするって、開き直れた」

 神経質でもある。

 「舞台にも、人にも、細かく考えすぎる。誰がどう思っているのか、言葉とは裏腹な本音を察知しちゃう。すごく疲れる。能天気に暮らしたいんですけどね」

 この日の取材でもその一端が発揮された。新生月組への問いで、今の立場について自ら語り始めた。

 「やはり、空気はガラッと変わりました。トップの方が下級生で、自分は上級生。そこのところは皆さんからしたら、いろいろなご意見があると思います」

 月組は9月に退団した前トップ龍真咲から、若き新トップ珠城にバトンが渡され、先輩の美弥が後輩トップを支える立場だ。

 「実際に始まれば関係ない。私は彼女が下級生だからって思いはまったくないし、彼女もいい意味で私に遠慮することはない。一緒にいい舞台を作る。いい関係が築けています」

 若いが落ち着きのある珠城には大人の男役が似合う。美弥は涼風同様、フェアリータイプの男役だ。「彼女(珠城)は、大人っぽい。むしろ私の方が若く見えることも」と笑わせた。

 正反対の持ち味が、新たな名コンビを生みそうだ。

 「私としては階段をひとつ上ったからといって、物の見方も、自分も変わるわけではない。いい意味で私は変わらず、見ている皆さんが『変わった』と思ってもらえたらいいですね」

 新生月組でも、変わらぬ輝きを放ち、走り続ける。【村上久美子】

 ◆ザ・ミュージカル「グランドホテル」(特別監修=トミー・チューン氏、演出=岡田敬二氏、生田大和氏)1928年のベルリンが舞台。高級ホテルを訪れた人々が、1日半のうちに繰り広げる人生模様を描いたミュージカル。89年にブロードウェーで幕を開けた同作は、トニー賞で5部門受賞。ロンドンやベルリンでも上演され、93年に涼風真世を中心とした月組で宝塚版として上演された。

 ◆モン・パリ誕生90周年 レヴューロマン「カルーセル輪舞曲(ロンド)」(作・演出=稲葉太地氏)日本初のレビュー「モン・パリ」誕生から90周年記念作。日本を出発しパリに着くまでを描いた「モン・パリ」に対し、パリから宝塚を目指して世界をめぐるバラエティーショー。

 ☆美弥(みや)るりか 9月12日、茨城県古河市生まれ。桜丘女高を経て03年入団。星組配属。10年「ハプスブルクの宝剣」で新人公演初主演。12年4月、月組異動。14年夏、シアター・ドラマシティほか公演「THE KINGDOM」で、凪七瑠海とダブル主演。来年4月「瑠璃色の刻」で外部単独初主演の予定。身長168センチ。愛称「るりか」「みやちゃん」。