日刊スポーツのニュースサイト、ニッカンスポーツ・コムです。


宝塚 ~ 朗らかに ~

宝塚 ~ 朗らかに ~

 夢の舞台を創り続けて100年あまり。時代とともにスターを生み、話題作を手掛けてきた宝塚歌劇団。華やかなステージを作り続ける裏側で日々、厳しいけいこと競争の中で切磋琢磨を続けている夕カラジェンヌの横顔を伝えます。

立ち方、角度研究 足長美学/凰稀かなめ

[2013年9月19日10時15分 紙面から]

「風と共に去りぬ」でレット・バトラー役を務める凰稀かなめ(撮影・宮崎幸一)
「風と共に去りぬ」でレット・バトラー役を務める凰稀かなめ(撮影・宮崎幸一)

 宙組トップスター凰稀かなめは、就任1年を過ぎた。兵庫・宝塚大劇場の次作公演では、大作「風と共に去りぬ」(27日〜11月4日)にレット・バトラー役で主演する。大人の色気が漂うバトラー役に「人間としての自分を一から洗い直しています」。小顔にヒゲをたくわえ、長身にスーツを着こなしたポスター写真。組んだ足の長さに見とれた人は少なくない。だがその裏には、バトラーに負けない、凰稀の“美学”があった。東京宝塚劇場は11月22日〜12月23日。

 ついに海外の名優や先輩たちが演じてきた、大人の男に挑む。「今の時代の感覚を持っていては絶対に無理。バトラーの懐の深さと大きさ、心のゆとりを出すのは…。人としての自分自身を洗い直しています」。南北戦争の最中、スカーレットを深く大きな愛で包む一方で、たけた処世術を武器に、激動の時代を生き抜いた男がバトラーだ。これまでにも打診はあった。

 「何度か、お話をいただいていたんですけど『今の自分ではできません、もう少し先にお願いします』と、お断りしていたんです。でも、急に決まって…、これも100周年への1歩を踏み出す運命なのかな」

 外見では、特徴である「ひげ」にこだわった。「顔のパーツ、バランスを考えて細く。端っこの方はより、細くしています」。長身と美脚が引き立つ、スーツ姿の美しさは、男役のキャリアが培ったたまものだ。

 凰稀といえば今年春、夏の大劇場公演、全国ツアーのレビューで「パイナップルの女王」にふんし、美脚を披露し、注目を集めた。ライン、長さ、体とのバランスが絶妙で、ファンを魅了したが…。「足に自信? いや〜、どうなんでしょう? でも、そう言っていただくとありがたい」。

 屈託ない少年のような笑顔を見せつつ、少しだけ、その“裏”を明かした。もちろん、一般的に見れば足長だが、宝塚にはスタイルのいいメンバーが多い。「足やひざ下の長さは、みんなと変わらない。実寸で私よりもっと長い子もいますよ」。確かに、凰稀率いる宙組は175センチ近い長身ぞろいの男役スターが多い。

 「だから立ち方の位置や、ヒールの高さ、足の角度、服のライン…。そういう所で(長くきれいに)見せる努力はしています。下級生のころは、先輩からアドバイスもいただきました。先輩の着こなしを見て、自分でもすごく研究しました。どうすれば良く見えるのかを考え、鏡で確認して」

 誰もがあこがれる8頭身スタイルは、天賦の才だけでは輝かない。地道な努力があってこそだった。もっとも子どものころは「足の形を良くするために正座をしない方も多いと聞きますが、私は、していました! ご飯のときは正座。そういうしつけの家でしたから」と笑わせた。

 実は当初、凰稀がバトラーとスカーレットを役代わりする案も出たというが、バトラー一本に絞られた。

 「今まで誰もやっていないので実現したら、面白そうでしたけど。バトラーも他の役もそうですが、この時代の人たちの、生命力の強さを深く見せたい。映画を見て自分が一番ひかれたところだから。心に芯を持つ人が前に進む強さやエネルギー。あがいて、あがいて、出て来るもの。感情を全部出しきろうと」

 それが、凰稀の言う「人として自分を一から洗い直す作業」になる。映画版でバトラーを演じたクラーク・ゲーブルの「深みのある演技と格好良さ」から感じたことだった。「私自身がこれまでの人生で経験した人との出会いや別れを振り返り、そのときの感情を洗い出していきました」。かつて、自らの性格を「誤解されやすいタイプ」と称した凰稀は、それゆえ、苦い経験も多かったという。

 「今は落ち着いていても、当時は未練や後悔もありました。状況は違いますが、きっとバトラーもスカーレットに対する後悔の念はある。でも、未練を断ち切り、生きる気持ちを考えたい。私もこの役を乗り越えれば、確実に人として、男役として大きく…いや、ならなければ、ここ(宝塚)にはいられない」

 クールなルックスの内にたぎる、バトラーのような熱い心で、名作に挑む。【村上久美子】

 ◆宝塚グランドロマン「風と共に去りぬ」(原作=マーガレット・ミッチェル、脚本・演出=植田紳爾氏、演出=谷正純氏) 世界中で読まれているベストセラー小説で、映画版の大ヒットでも有名な名作。宝塚初のミュージカル化は77年。以後、再演が重ねられ、公演回数は1216回、観客動員は272万人を数え、劇団代表作のひとつ。「ベルサイユのばら」とともに、型にはまったセリフ、しぐさなどが「歌舞伎芝居」と呼ばれ受け継がれる。

 南北戦争を舞台に、バトラー(凰稀)と、スカーレット(朝夏、七海役がわり)、メラニー(実咲凜音)を軸に繰り広げられる恋と、周囲の人間模様を描く。

 ☆凰稀(おうき)かなめ 9月4日、神奈川生まれ。順心女子学園中を経て00年「源氏物語 あさきゆめみし」で初舞台。雪組配属。05年「霧のミラノ」で新人公演初主演。06年「Young Bloods!」でバウ主演。09年4月に星組へ、11年2月に宙組へ移る。昨年7月、宙組トップに就き「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」でお披露目。今年3月は巌窟王で知られる「モンテ・クリスト伯」主演。7〜8月には名作「うたかたの恋」全国ツアー。身長173センチ。愛称「かなめ」。

プレシャス!宝塚の最新記事





日刊スポーツ購読申し込み 日刊スポーツ映画大賞