宝塚 ~ 朗らかに ~
夢の舞台を創り続けて100年あまり。時代とともにスターを生み、話題作を手掛けてきた宝塚歌劇団。華やかなステージを作り続ける裏側で日々、厳しいけいこと競争の中で切磋琢磨を続けている夕カラジェンヌの横顔を伝えます。
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ジキル博士で目覚める次代の星/真風涼帆
[2013年10月3日8時36分 紙面から]
- 星組公演「日のあたる方へ-私という名の他者-」に向けて意気込みを語る真風涼帆(撮影・清水貴仁)
星組の男役スター真風涼帆が、英小説家スティーヴンソン氏の「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」をもとにしたミュージカル「日のあたる方へ-私という名の他者-」に主演する。演じるのは、二重人格の代名詞的にも使われる「ジキルとハイド」の2役。前作の大劇場公演も2役で、このところ同時に多様なキャラクターを演じているが、それとは趣も違う。シアター・ドラマシティ(大阪市)公演は7〜15日、東京・日本青年館公演は25〜30日まで。
髪形は繊細そうなイメージのオールバック。指を額にあて、視線は下に落とす-。今回の主演作ポスターの真風は、明るい自身のキャラクターとは雰囲気が違う。「(脚本・演出の)木村(信司)先生のイメージが、オールバックなんだそうです」。ポスター写真とはかけ離れた、天真らんまんな笑みを浮かべた。
自身初となるドラマシティ、日本青年館での主演公演。「ドキドキです。(プレ100周年の)この時期に主演、身の引き締まる思いです。日々、勉強。いろいろなことを感じていけるように過ごしていきたい」
今作は善と悪、2つの人格を主題に原作をもとにしたミュージカル。原作でのハイド氏は、ジキル博士の人格の裏に潜む極悪人だが、宝塚版は異なる。
「ハイド氏の部分は極悪人というより(ジキルが)そうならざるを得なかった隠された過去、トラウマとして描いています。自分の中に潜む一面との、折り合いが難しい」
ジキル博士は、まじめな精神科医。精神疾患のマリア(妃海風)のため、自ら薬の被験者になる設定だ。
「薬を試すことで、自分の中にあるいろいろな感情、物事が出てきて、自分自身もそれを乗り越えていくという感じです」
前作の大劇場公演「ロミオとジュリエット」ではティボルト、ダンサー「死」の2役を演じたが、今回は“人格の2役”だ。
「全然違いますね。思い悩む場面ばかりではないんですけど、全体的な世界観がそういったイメージ。深刻ではない場面もあるので、その空気に引きずられすぎないようにメリハリをつけたいと思っています」
演じている時間は、ジキルの方が長い。ただ、舞台上で瞬時には変身できない。表情、声のトーンと、表現力で演じ分ける。
「歌の場合は音域を広げ、セリフは(両者の)声のトーンを練習しています。2人分なので、セリフもたくさんあって、毎日、苦慮しております」
音楽を使って区別する演出もあるが、頼りすぎないようにしたいという。そんな真風本人は、役柄を引きずるタイプではない。「影響で、普段の生活が暗くなることはないですよ(笑い)」と快活な性格はそのまま。それゆえ、笑って続けた。「(役と近い)実体験や自分の二面性を考えているんですけど難しい」。
そんな真風にトラウマを聞いてみた。「うーん」。しばし考え込んだ後「子どものころ、苦手だったのはカエルですね(笑い)」と返してきた。
「今でも、嫌いです。自然育ちなんですけど、だからカエルが苦手なのかな? 都会出身の人から『基本的にカエル、見たことないから苦手の意味が分かんない』って言われました。はい、大阪出身の(トップ)柚希(礼音)さんにも!」
“トラウマ”も明るく笑い飛ばす真風だが、その胸中には、揺るぎない決意と自覚がある。今年8年目。新人公演を卒業した。本公演でも主要な役を任される。
「新人公演を卒業することへの責任感、不安もありました。でもすぐ次の公演で轟さんとご一緒させてもらい、勉強になりました」
3〜4月、ドラマシティなどで上演された「南太平洋」に出演。劇団理事で専科スターの轟悠が主演だった。「たくさんのアドバイスをいただきましたが、何より、宝塚、男役を愛する気持ちが、全身からにじみ出てらっしゃる。伝統とはこういうことか、と」。
大先輩から伝統の何たるかを学んだ。気分転換法も覚え、舞台へ情熱をより傾けられるようになった。
「昔は役のことを考えない日はなかったんですけど、今は休みの日に仕事を考えない時間ができました。ささいなことですが、ゆっくり、のんびり過ごすようにしています。お茶をしたり、お買い物に行ったり」
自分の時間を大切に、オンとオフの切り替えを心がけるようになった。精神面のケアとともに、健康管理にも留意している。
「手洗い、うがいを! ホントに必要だなと。野菜など食事のバランスも。健康ありきの舞台。最近、再確認したところです」。101年へ向けた「次世代トップ」候補の自覚も芽生えている。【村上久美子】
◆ミュージカル「日のあたる方(ほう)へ-私という名の他者-」〜スティーヴンソン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」より〜(脚本・演出=木村信司氏)小説「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」(1886年)をもとにしたミュージカル。善と悪、2つの人格が主題。原作では人格の裏側に潜む極悪人のハイド氏だが、宝塚版では、心の奥に秘められたトラウマとして描かれる。精神疾患を抱えるマリア(妃海風)の病気を治すため、ジキル(真風)は自ら治療薬の被験者となる。
☆真風涼帆(まかぜ・すずほ)7月18日、熊本県生まれ。06年、宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」で初舞台。星組に配属。09年2月、入団3年目で「My dear New Orleans」で新人公演初主演。11年4月「ノバ・ボサ・ノバ」にてオーロ、マール、メール夫人を役がわり。同年8月「ランスロット」でバウ初主演。身長175センチ。愛称「ゆりか」「すずほ」。
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