宝塚 ~ 朗らかに ~
夢の舞台を創り続けて100年あまり。時代とともにスターを生み、話題作を手掛けてきた宝塚歌劇団。華やかなステージを作り続ける裏側で日々、厳しいけいこと競争の中で切磋琢磨を続けている夕カラジェンヌの横顔を伝えます。
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男役集大成/蘭寿とむ
[2014年1月30日8時44分 紙面から]
- 宝塚歌劇団のモットー「清く正しく美しく」の掛け軸をバックにポーズを決める蘭寿とむ
花組トップスター蘭寿とむのサヨナラ公演「ミュージカル ラスト・タイクーン -ハリウッドの帝王、不滅の愛-」「メガステージ TAKARAZUKA ∞ 夢眩」が2月7日、兵庫・宝塚大劇場で幕を開ける。3月17日まで。芝居は、米作家フィッツジェラルド氏最後の作品のミュージカル化。1930年代のハリウッドで名をはせたプロデューサーを演じ、ショーでは、マドンナの世界ツアー専属ダンサーだったケント・モリ氏の振り付けもある。宝塚20年の集大成だが挑戦、進化を続ける。東京宝塚劇場は4月10日~5月11日。
ラスト公演を前に気負いはない。屈託ない笑みが、自然体の証しだ。「もう寝不足すぎて(笑い)。今は特別な感情はないです。けいこに入る前は『これが最後』という気持ちはありましたけど…」。宝塚音楽学校入学から劇団入団後の試験すべて1度も首席を譲らなかった「優等生トップ」。最後まで笑顔の裏で修練を重ねる。
宝塚最後の役柄は、1930年代のハリウッド映画界で活躍した豪腕プロデューサー、モンロー・スター。米作家フィッツジェラルド氏の未完長編小説「ラスト・タイクーン」を原作としたミュージカルで、主人公の栄光と挫折、恋を描く。
「ハリウッドが一番、華やかな時代。いい映画を作りたい一心で、強引ながらもみんなをまとめていく。作り込んでいく、いい役をいただいたと思います」
プロデューサーと、トップ。ともにリーダーの立場だが、仲間への接し方は真逆だ。「私は、自分が(作品に向き合う)姿勢を見せることで、みんなについてきてほしいタイプ。モンロー・スターは強引に『俺についてこい!』。でなければ、去れという感じで。そこは全く違う」と笑う。
もっとも、リーダーとしての思いは同じだ。
「彼らの映画作りは宝塚と似ている。私たちも『この舞台に立ちたい』と思って集まったみんなで、いい舞台にしようとしている。作中、何度も出てくる『結束が大事だ』というセリフなど、共感できる部分が多いので、自分の思いを役に反映できたらと思います」
自身の心中とリンクする楽曲もある。「『迷わず、歩んだ、ただひとつの道を…』と、銀橋を真横に見ながら歌う。今まで歩んできた自分の宝塚人生を思い出しながら」。人生を賭けた夢がかなう日を信じて-という内容。迷い、悩みながらも、夢を信じてきた、自身のキャリアと重なる。
「魅力にとりつかれている」と称した男役の集大成でもある。振り返ってみると「下級生の頃は、男役の醍醐味(だいごみ)を分かっていなかった」。経験を重ね、演じ込む喜びを知った。昨年2月の「オーシャンズ11」で演じたチョイ悪男、ダニー・オーシャン役で「ずっとなりたいと思ってきた『肩の力の抜けた大人の男』を表現できるようになった」と実感し、退団を意識した。くしくも今回演じる役柄も同じ、色気ある大人の男だ。
「男としての大きさも求められる役。映画にかける情熱の強さ、愛する彼女を失ったときの力の抜けた心情…。今の学年だから生み出せるものを表現したい」
演出の生田大和氏は大劇場デビュー作。蘭寿のラスト公演で、新たなクリエイターが生まれる。
「その意気込みたるや、ほんとにすごい。けいこしながら、もっといい方へってセリフも変わる。そんな思いにぶつかっていけるのはうれしいですね」
ショーは100周年を意識し華やかさを凝縮。マドンナの世界ツアーで専属ダンサーを務め日米で振付師としても活躍するケント・モリ氏のナンバーも用意されている。
「幕開きからアップテンポで、花組のパワーがさく裂。前半はパンチの効いたリズミカルでスピーディーな楽曲が続き、中詰めは男役が黒えんびでそろいます。私自身、集大成として大好きな黒えんびで、思い残すことなく、踊りきりたいと思っています」
後輩の面倒見がいい人格者。“生きた教科書”の蘭寿の姿を目に焼きつけようとする組子の視線を、普段以上に感じている。
「もともと面倒を見る方というわけではなかったような…。子供のころ、毎年、学級委員はやっていましたけど、生徒会長までやっていませんから(笑い)」
ほめられると照れ笑いする。蘭寿らしさは、公演期間中の息抜きである、余興披露会でも発揮される。
「普通、トップさんはあまり自分で(芸は)やらないんですけど、私は、人を楽しませるのが好きなのでやります。今回? 内緒です! ずっと続いている(劇団スタッフをものまねした)レパートリーもありますし、さて、何をやるでしょう? サプライズで!」
仕事も遊びも、全力投球。「はい、最後まで笑わせて…って、私、芸人か!」。間合いのいいノリツッコミで、インタビューをも盛り上げる。退団後は「まだ何も…。今は公演に集中しています」。最後まで人を楽しませるエンターテイナーだ。【村上久美子】
◆ミュージカル「ラスト・タイクーン -ハリウッドの帝王、不滅の愛-」~F・スコット・フィッツジェラルド作「ラスト・タイクーン」より~(脚本・演出=生田大和氏) 米作家フィッツジェラルド氏の未完長編小説をミュージカル化。1930年代のハリウッド映画界を舞台に、大物プロデューサーの栄光と挫折、恋を描く。
◆メガステージ「TAKARAZUKA ∞ 夢眩」(作・演出=斎藤吉正氏) 100周年、次の100年への挑戦心を軸に、一部場面で、ケント・モリ氏が振り付けを担当。
☆蘭寿(らんじゅ)とむ 8月12日、兵庫県西宮市生まれ。武庫川学院を経て、96年「CAN-CAN」で初舞台。花組配属。01年「ミケランジェロ」で新人公演初主演。06年4月、宙組へ異動。09年2月「逆転裁判」シリーズ主演。11年4月、花組へ戻りトップ就任。同6月「ファントム」でお披露目。昨年2月「オーシャンズ11」では、大人の色香漂う男を好演。同6~7月、東急シアターオーブで「戦国BASARA-真田幸村編-」主演。身長170センチ。愛称「とむ」。
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