宙組トップスター凰稀かなめの退団公演「白夜の誓い-グスタフ3世、誇り高き王の戦い-」「PHOENIX 宝塚!!-蘇る愛-」が7日、兵庫・宝塚大劇場で開幕する(12月15日まで)。在位2年8カ月の有終を飾る信念を貫き通した国王役は、納得しないと動かない性格の自身に重なる時期があったという。東京宝塚劇場は来年1月2日~2月15日。

 「ただ、楽しんでいるだけなら、人は輝かない」

 センターに立ち、トップライトを独占する者の心意気。サヨナラ公演も「いつも通り」と平常心を強調する凰稀のポリシーだ。人とぶつかり、反発されても、自分の意見は言う。熱い心とは裏腹、クールな外見だけに、誤解もされてきた。

 「まさしく、この作品は若き日の自分って感じです。がむしゃらに自分の意志を貫き通していく中で、ついてくる人間も反発する人間も出てくるという…」

 今作はスウェーデン中興の祖と呼ばれ、貴族から特権を奪い、内政を改革し民衆に愛された名将で、北欧文化を開花させたグスタフ3世の生涯を描く。

 「何があろうとも、前に突き進んでいく。人のことを考えるがゆえ言い過ぎてしまい、傷つけてしまう。自分と似ているなって」

 けいこ場で演出陣と役作りで火花を散らし、暇があればけいこに時間を使う。

 「この間も、全く食べることを忘れていて…。そうしたら、上級生の方が、ご飯を買ってきてくれました。(値段を聞くと)大人の事情でいりませんって言われましたけど(笑い)」

 食事さえ忘れて、けいこに没頭してしまう。

 「家に帰るのも遅く、家にいる記憶がない。寝るだけ。テレビもつけていないので、先日、台風がきていたのも知りませんでした」

 かつて、植田紳爾氏が凰稀を「反省するトップ」と評したことがある。劇団、組内において、トップは絶対君主的存在だが、凰稀は日々、自省を繰り返す。

 「私、怖がりなので、自分の心が負けないぐらいのところまで、おけいこは絶対にする。でないと、あのライトは浴びられません」

 実生活でも怖がりだ。

 「小さい車で、助手席に乗っていて、風が強い日にカーブを曲がるとき、車が転がっている! と思うんですよ。転がらないんですけどね(笑い)。トンネル事故に遭ったら、どうしよう? とか。飛行機も昔は怖くて乗れませんでした」

 舞台ではアクシデントの恐怖がある。けいこ場の衣装から役柄気分にも浸る。

 「軍服姿、宮廷服もありますし、芸術的なイメージでコーディネートしています」。胸元にはショーのタイトルにちなみ、羽のアクセサリーが。「フェニックスもかけてきました」。

 退団公演になると、特集雑誌の取材などが立て込むが、それでも「いつも通り」を貫く。次期トップは2番手朝夏まなとに決まり、娘役は実咲凜音が留任。組メンバーには、言葉ではなく姿勢で伝える。

 退団後については「(左手薬指を掲げ)こう! って言いたいですけど、まったくないですね」と笑わせた。ただ、芝居に興味があり「そういうのをやっていきたい」との思いはある。

 「今のうちから決めておきなさい、って言われるんですけど、今は宝塚のことだけを考えていたい」

 涼しげな顔立ち、スタイルながら、内面は愚直で泥臭く、一本気なトップは、全身全霊を傾け最後の役に向かう。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「白夜の誓い-グスタフ3世、誇り高き王の戦い-」(作・演出=原田諒氏) スウェーデン国王、グスタフ3世の生涯をミュージカル化。貴族政治からの脱却を図った内政改革などで名将として知られる。権謀渦巻く18世紀の欧州にあって、信念を貫いた男の生きざまを描く。

 ◆グランド・ショー「PHOENIX 宝塚!!-蘇る愛-」(作・演出=藤井大介氏) 100年から101年への懸け橋、再生への思いから、「フェニックス」をテーマに構成。凰稀をフェニックスに見立て、男役の美しさを表現する。

 ☆凰稀(おうき)かなめ 9月4日、神奈川生まれ。順心女子学園中を経て00年に入団。雪組配属。09年4月に星組、11年2月に宙組。12年7月、宙組トップ。同8月「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」でお披露目。昨年は「モンテ・クリスト伯」「うたかたの恋」「風と共に去りぬ」などに主演。身長173センチ。愛称「かなめ」。