バテ気味の夏ドラマ界で、料理で食欲を刺激する、いわゆる“飯テロ”ドラマが面白い。同じ金曜日に3作が集中する前代未聞の企画かぶりだが、奇跡的に個性のすみ分けができていて、3階建てで見比べても楽しい。担当プロデューサーは「最初は企画の渋滞にあせった」としながらも、結果オーライな展開に、視聴率的な「下心」ものぞかせている。

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「侠飯~おとこめし~」の生瀬勝久(C)「侠飯~おとこめし~」製作委員会
「侠飯~おとこめし~」の生瀬勝久(C)「侠飯~おとこめし~」製作委員会

 金曜日に放送されている飯テロドラマは以下の3本。

◆「ヤッさん~築地発!おいしい事件簿~」(テレ東午後8時、主演伊原剛志) 銀座の名店にも一目置かれる食の天才ホームレスが、転がり込んできた弟子と起こす築地人情ドラマ。「自称グルメとバカなマスコミ」に作られた行列店やエセ一流店をバッサリ論破。直言キャラが笑える痛快劇。魚河岸の魚から、和食、洋食の老舗料理まで。

◆「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」(テレ朝午後11時15分、主演剛力彩芽) 官邸料理人に就任した25歳の天才女性シェフが料理で政権を救う。「信長のシェフ」と「民王」を合わせたような、この枠らしい軽妙かつ大胆な快作。1話は「冷めたスープ」と酷評される総理をスープで救った。滝藤賢一、高橋一生、小日向文世ら豪華共演陣。料理は主にフレンチ。

◆「侠飯~おとこめし~」(テレ東ほか深夜0時12分、主演生瀬勝久) 大学生の6畳アパートに居座るヤクザ組長が教える「ちゃんとした暮らし」。食にうるさい組長が料理で伝える、聞き捨てならない人生訓。サバマヨ冷ややっこ、ねぎ飯など冷蔵庫の残り物で作る激うま料理。

 ある金曜日をピックアップすると、「ヤッさん」は海鮮丼、そば、韓国料理、「グラメ」はフレンチのフルコース、「侠飯」は焦がししょうゆのにんにくチャーハンが登場し、コース料理から夜食までそろう充実ぶり。築地市場の豊洲移転(11月)を前に、「ヤッさん」と「グラメ」は築地グルメも盛り込んでいる。人情もの、女子の成長もの、ハードボイルドコメディーと3作のテイストはそれぞれだが、メニューを背景にした人間ドラマがなかなか染みて、食欲、涙腺、笑いのツボを刺激される。

 「ヤッさん」と「侠飯」を手掛けるテレビ東京の浜谷晃一プロデューサーは、今回の飯テロかぶりの張本人でもある。浜谷氏によると、先に企画が決まっていたのは「侠飯」という。「『ヤッさん』とグルメかぶりになる自覚はありましたが、名店を舞台にした人情ドラマと、冷蔵庫の残り物グルメはカラーが違うから押し通せるんじゃないかと」と苦笑い。フタを開ければ、テレ朝の金曜ナイトドラマ枠も飯テロ系だった。「テレ朝のリリースで知った時は企画の渋滞にあせりましたが、3つとも色が違ったのが逆にいい相乗効果になった。金曜日が楽しみという声を多くいただき、ありがたいです」。

テレビ朝日系ドラマ「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」をPRする剛力彩芽
テレビ朝日系ドラマ「グ・ラ・メ!~総理の料理番~」をPRする剛力彩芽

 「グラメ」の感想を聞くと「高級料理を舞台にしたもてなしの心ですよね。ウチとかぶらないジャンルで、面白かったです」。さらに「『グラメ』が0時15分に終わると、ウチの『侠飯』が始まる時間なんですよ。その流れがちょうど『おなかすいたな~』って頃で、テレ朝から視聴者をこっちに流入させたいという下心もあります」と笑う。

 3作とも、新聞雑誌のドラマ批評や、ネット上の満足度調査で高い評価を集めている。飯テロドラマも、おいしいものが登場するだけではない、次のステージに入った印象だ。

 浜谷氏は「『孤独のグルメ』が当たって以降、設定が練りきれなくてもグルメで当てようという飯テロ系がいっぱい出て、『また?』という風当たりの時期も正直あったんですよ。今は、凝った設定の上に、ユーモアだったりしっかりした人間模様だったりのドラマ性が必須。それがないと料理番組と同じですから。食欲の刺激に、ドラマとしての爽快感がしっかり求められる、プラスαの時代です」。

左から伊原剛志、柄本佑、上地雄輔(C)テレビ東京
左から伊原剛志、柄本佑、上地雄輔(C)テレビ東京

 ちなみに、「ヤッさん」に弟子入りするダメ青年を柄本佑、「侠飯」で組長に振り回される大学生を柄本時生が演じている。柄本兄弟かぶりも“プラスα”のうちなのだろうか。

 浜谷氏は「すごいかぶり方ですが、さすがにそこまでは狙っていません。シナリオを作って、キャラクターに当て込んだらそうなっただけで」と話す。「先日、オフの時に兄弟で話したそうですよ。2人とも、芝居の中で食べてリアクションして、主人公のアウトローなおじさんに振り回されて怒られる。『驚き疲れする』と盛り上がったそうです」。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)