国際的評価の高い小栗康平監督(69)の10年ぶりの新作映画「FOUJITA」が完成した。1920年代のパリで、ピカソやモディリアニらとともに注目された画家藤田嗣治の物語で主演はオダギリジョー(39)。監督生活34年で6作という寡作だが、「ただ、いい映画を撮りたいだけ」という。

 藤田は1920年代の華やかなパリで、裸婦像で「時代の花形」となり、40年代の日本では戦争協力画を描いて美術界の重鎮に上り詰めた。その極端な二面性が小栗監督の心を捉えた。「狂乱のパリで売れっ子になり、日本に帰ってくると戦争協力者として描き続けた。極めて複雑な人です。局面局面で現実に向き合い、どんな状況でも1番になりたい人なんですね」。

 「乳白色の肌」と絶賛された裸婦像と陸軍美術協会のもとで描いた「アッツ島玉砕」などの作品は対極にある。戦後はそれが変節として非難もされた。「一般的な理解としては戦争で魂を売ったということになりますが、その見方は怪しいと思っている。明治生まれの、何も知らない1人の男が欧州の絵画の伝統の中で自分なりの油画を発表して現実に売れた。なまじのことではない。こちらの理解を超えた社会環境でちゃんと生きた人なんです」。

 映画は前半がパリ、後半が日本と、まるで別の作品のように併置されている。1人の男として演じきったのがオダギリだ。「台本を渡した時には『戦争のことは分かりません』とあっさり言うんですね。学習して理解するタイプではない。撮影中も分かってるのかな、と思うんだけど、いざカメラを回すとしっかりそういう風に見える。変なところあるよね。これ褒めてるんですよ」。パリでのおかっぱ頭、日本での軍帽。ひょうひょうとしたオダギリが、正反対の環境を積極的に受け入れた藤田の生き方にピタリとはまっている。

 10年のブランクは長い。「いい映画を撮りたいと思っているだけです。次はないかもしれないと思いながら、ようやく来たチャンスは、十分な企画で十分やりたい。ずっと風が吹くのを待っている心境です」。

 薄明かりの中に町並みや人物が浮かび上がる映像は絵画のようだ。「『泥の河』でスタートして小栗の映画はどんどん難しくなると言われる。劇中の藤田の絵もそうですが、絵を見て分かる、分からないという人はあまりいない。映画は動きも言葉もあるから一緒じゃないけど、まずは絵と同じで画像から感じるものだと思います。テレビドラマで言葉の説明に慣れすぎているけど、もう1回画像の力に立ち戻りたかった」。

 「FOUJITA」は11月14日公開。【相原斎】

 ◆小栗康平(おぐり・こうへい)1945年(昭20)10月29日、群馬県生まれ。早大卒業後、浦山桐郎監督に弟子入り。81年に宮本輝原作「泥の河」で監督デビュー。モスクワ映画祭銀賞。84年「伽■子のために」で仏ジョルジュ・サドゥール賞。90年「死の棘」でカンヌ映画祭審査員賞。96年に「眠る男」がベルリン映画祭芸術映画連盟賞。

※■はにんべんに耶