苦しい台所事情が透けるラインアップとなった。白組は初出場5組で復帰が3組。紅組は11組を落選させて初出場5組、復帰3組と大幅に入れ替えた。「BUMP OF CHICKEN」や「μ 's 」など若者に人気の初顔から、近藤真彦やレベッカ、X JAPANなど中高年層が懐かしがる人たちも加え、バランスを整えた。

 それでも今年を代表する歌手や大物はなし。過去に例がないほど地味な顔触れにとどまった。選考に手間取った司会者と異例の同時発表にしたのも、歌手の発表だけでは、話題性に乏しい側面もあった。

 NHKの力不足とのひと言では片付けられない。インターネット文化のあおりで、CD市場は縮小。趣味嗜好(しこう)の多様化もあり、近年は時代を象徴するような流行歌が生まれにくい土壌になってしまった。昨年は映画「アナと雪の女王」の大ヒットで、幸運にも「Let It Go〜ありのままで〜」が生まれたが、今年は子供が口ずさむような、カラオケでマネされるような曲はほとんどない。そもそも、老若男女に話題にされる出場歌手がいなかった。音楽業界の大凶作を映し出した結果だ。

 民放は視聴率が取れずに音楽番組を減らす傾向だが、NHK紅白歌合戦だけは国民的番組としての矜持(きょうじ)を示さねばならない。残り1カ月。例年、ここから隠し玉の目玉歌手と交渉を続けて、ギリギリの年末に出演にこぎつけている。井上陽水や竹内まりや、B 'zなど、まだ出場経験のない超大物アーティストは存在する。【瀬津真也】